ドラゴス村
ステップを踏む度に、湖面に波紋が広がるように、この乾燥した大地を覆う砂に踏み跡をつける。両足から溢れる筋力強化魔力は瞬間、足の裏から爆発的に膨れ上がると小規模だが、周囲の砂をまき散らし、カズマとカミューラに圧倒的な推進力を与える。湖面に雨が降るように、ぽつぽつと波紋は周囲に広がって行きやがて、それは砂塵を舞い上がらせ、お互いの視線を遮る。まるで、煙の中で戦っているようだった。
”カーン、カカッカ、カーン”
木管楽器となったアザルウォーク製木刀の長い演奏の後、砂塵から現れたのは、木刀を地面に差し、腰に両手を添えて勝ち誇るカミューラと、砂に身体の半分を埋没したカズマだった。
砂が入らないように目を細め、口から負け惜しみの代わりに砂を吐き出しているカズマ、その表情はまさにわかり易い、勝者と敗者の図であった。
「それでね、父様、カズマったら私の背後を取ろうと無理に態勢を変えるものだから、砂に足を取られて見事に顔から地面に突っ込んだの…。」
「ワッハッハッハ…。カズマはまだ、ここに着いて半月。この地で生まれ、ずっと魔力を使って砂の上を歩いてきたカミューのように上手く戦える方が異常だべ。」
ごっごっごっ、と火酒”スピリット”を喉を鳴らしながら飲む、真っ赤な魔獣の血で染められた座椅子に座りながら、両膝を叩く赤髪の大男は、このドラゴス村の村長であり、戦士長のドベルト=ドラゴスである。
「そうね、確かに半月で魔砂歩”まさほ”を使っているカズマは、大したものだわ。」
思わぬ、お嬢からのお褒めの言葉に、カズマは目を丸くしながら、巨大な串焼き肉に舌鼓をうつ。
周囲は村長一家とゼノスとカズマを含め、焚き火を中心に円を作り座っていた。
ドラゴス村は炎の精霊の加護の強い、砂漠地帯にあり、近くには火竜の住む火山に囲まれている。
もちろん、近くに木々はなく、焚き木は下級火竜”ドレイク”の糞を乾燥したものを使っていた。
下級でも火竜の加護でもあるのか、火力は抜群で、離れているのに熱気が感じられ、遠方の砂に刺している巨大な串肉はジュウジュウと音を立てて、内にある油を放出している。
村の家は、上級火竜の分厚い皮を使っているテントのようなもので、夜を照らす灯りは、燃える水”石油のようなもの”を使っていた。それでも、遠方で採れる貴重なもので、夜間はほとんど灯りを使わないし、焚き火をするのも食事を作る際にのみ使用する。その分、月明かりは明るいし、星々の光は息を吞む程で、この光景を無粋な屋根で覆うのは勿体ない。雨は全く降らないので、屋根を作る必要もなく、テントは周囲を囲んでいるだけだ。気温は、夜間若干冷えるものの、一年中30℃から40℃の間で推移しており、寝るのに寝具は使わない。昼間の熱を残した砂に体を半ば埋めて村人は寝る。
村長一家は20人程で、元村長のドミニク=ドラゴスの3人の息子及び2人の娘とその家族で構成されている。燃料を有効利用するためか、食事は一家全員でとる。
隣で座る、唯一歳の近いカミューラの傍で、周囲に負けじとカズマは串焼き肉にかぶりついた。
テントの装飾品は、どれも仕留めた魔獣の皮や牙を中心に飾られており、その大きさから軽く5メトル”メートル”を超えてるに違いない。そして狩猟部族を象徴しているような、巨大な魔獣の素材で作られた大剣や槍が何本も置かれている。これらは全て周囲の火山の中で一番高い「聖炎龍王火山」”ドラゴス火山”の中腹にあるドワーフの村で作られたものだ。錬成を行う窯は絶えず火が入っており、夜間であれば、ここドラゴス村でも見ることができる。
この村の住人はドラゴス族と言われ、ドラゴス火山に住むエンシェントドラゴン、聖炎龍王と人族が交わった子孫と伝えられいる。彼らは生まれもっての戦士で、たぐいまれなる動体視力を持ち、分厚い皮膚に覆われ、ドラゴンの血が流れているかのように強い魔力と筋力を持つ。そして古の時代から魔獣を狩る、狩人”かりうど、ハンター”として世界各地を回りその存在を世界に知らしめてきた。
赤髪に赤眼はドラゴス族の象徴であり、聖炎龍王のそれと一緒である。彼らは魔獣狩りに特化した技と武器を操り、様々な伝説を世界に残してきた。カズマはその伝説の狩人のもとで、その戦闘技術を学べることに心を躍らせるとともに、自分がどこまで強くなれるかを楽しみに、心地よい肉の焼ける音と空を覆う星々を見ながら、まだ見ぬ魔獣”獲物”に胸いっぱい、心を震わせるのだった。




