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見果てぬ大地  作者: えっちぴーMAX
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故郷を離れて

 最近まで、朝起きた際に見られた窓ガラスの表面に広がる霜も消え、城の外の肌を刺すような気温もだいぶ和らいできた。カズマは朝の稽古に向かう途中、城の裏手にあるプラムの花を見上げながら、春の訪れを感じていた。

 ベルシュタインはブロスブルグ王国南部に位置する南部辺境伯領であり、冬は2ヶ月程しかない。領地のほとんどが広い平野であるベルシュタインは北西のキュレネー山脈から流れてくる冷たい北風と南に広がるアッシュダルト大森林からの温かい風がぶつかり合い、特に冬の午前中は濃い霧が広がることがある。今日も城下の町は白い霧に覆われており、早朝の町はひっそりと静まり返っていた。


 真剣を模擬した木刀での稽古は素振りに始まり、最後は師匠との模擬戦になる。木刀の素材となった木材は、中でも特に堅く重いアザルウォークの木を使用していおり、木々を打ち付ける子気味良い音が白い霧の中に響いていた。


早朝の気温は4℃ほどまで下がっていたが、稽古中には汗が吹き出て、汗を吸った服が体に張り付いた。

それを嫌った二人は、いつも上衣をぬいで、上半身を裸で稽古していた。


剣で切りつける数が圧倒的に多いカズマに対し、そのすべてを完全にいなしながらも、カズマの隙を的確につく一撃を加え、しかも最小の動きでその斬撃を躱すゼノス…。

数百の斬撃を繰り出した後、カズマの呼吸は完全に上がっていた。

大きく上下を繰り返す肩はどう見ても、相手の攻撃に対応できそうもない。

獲物カズマが完全に弱り切ったのを確認した後、無情なる一撃がカズマの鳩尾みぞおちを直撃した。


「参りました。」


カズマは、木刀を放り出すと、固い地面に寝転んだ。


「がむしゃらに剣を奮っても、相手から隙を引き出すことはできないぞ、特に相手の技量が格上ならばなおさらな。」


陸から揚げられた魚のように酸素を取り込もうと大きく呼吸しているカズマを横目に、ゼノスはカズマの木刀を拾う。

どっしりと、外見を大きく裏切るようにこの木刀は重かった。

”剣の衝撃が重いと思ったら、木刀に重りを仕込んでいたか…。”


「…とは言ったものの、剣を振り回す、筋力だけはついたな。」


ゼノスはにやりと笑いながら、剣の重みを確かめるように手首をくるりと回すと木刀を一回転させ、柄をカズマに向けた。まるで小枝を扱うように、重さを感じさせない動きにカズマは嫉妬し、ふんとそっぽを向いたが、大人しく木刀の柄を握った。


「師匠の村(ドラゴス村)では、僕はどのくらいの強さですか?」


「魔術で言えば間違いなく上だろうな、しかし剣で言えば並と言わざるを得ないだろうな。」


「では、たくさんの強敵と練習できるわけですね。」


屈託なく笑うカズマの顔を見ながら、そう言えばカズマの稽古の相手は自分しかいなかったことにゼノスは気付いた。


”同年代と比べることが出来ず。自分の技量がどのくらいのものなのか知らなかった訳か…。確かに、カズマはそこいらの貴族の諸子に比べると力量は上であろう。しかし、あそこは格別だからな…。”


ゼノスはふと、自らの子供の頃の厳しい訓練を思い出し苦笑した。


”上手く周りと馴染めるといいのだが…。”

ゼノスは、これから向かう自分の故郷に思いをはせるのだった。



季節の移ろいは早く、カズマはあの日、ベルシュタインを旅立つ前に行った師匠との訓練を懐かしく思っていた。目を細めて雲一つない蒼天の空からさんさんと降り注ぐ、かつて故郷で感じられた数倍の太陽の日差しを感じながら、肉体の限界を引き出して行う模擬戦で、体中の血液の酸素濃度が一気に低下し、意識が朦朧としていた中で、やっと麻痺していた五感が回復し、視界がはっきりしてくるのを感じた。肌を焼く熱された砂に体の半身が埋もれながらもあの日、師匠と木刀を振る度に聞いていたアザルウォークが奏でる剣戟の音は遥か大陸を渡り、もはや別世界のような熱砂の周囲からも、幾つもの聞こえ、カズマの意識は覚醒する。



限界まで乾燥し、強度が最高潮に達した、数十年は経過しているだろうアザルウォークの木刀を杖にして、今だに疲労で回復しない緩慢な動きをする体をゆっくりと起こす。

体が思うように動かない苛立ちにカズマは、奥歯をギリリと噛んだ。

すると、痙攣していた左足のふくらはぎが通常を取り戻し、体中の枷の一つがまた一つなくなった。


目の前には、カズマと同年代の少年がこちらをどう料理しようか(仕留めようか)と瞳の奥に捕食者の暴力的な光を宿しながら、それでも狡猾に注意深くこちらを観察し、円を描くようにカズマの隙を突こうと歩調を変える。

”あと少し、あと少しで身体も満足に動けるように回復する。”

それに対し、カズマはわざと砂を足で鳴らしながら相手を牽制する。


相手は自分より数段上手うわてそれも自分の身体の状況を分かった上で、こちらが回復するのを待っているのだ。


「今のはだいぶ効いたんじゃない?」

「ほら、俺って手加減するの苦手だから」


赤髪、赤瞳の少女がカズマを挑発する。

髪も瞳も目を見張るような鮮やかな赤色をしていて、体の大きさはカズマの二回りは大きく、体付きは少女のそれよりも、むしろ少年のもので一見、髪の長さに気がつかなけば、間違いなく少年と勘違いしていたであろう。

カズマより5歳年上の12歳、引き締まった無駄のない筋肉は豹のようなしなやかな動きを作り出す。このドラゴス村の村長の次女、カミューラ=ドラゴスである。


カズマ、7歳 別大陸にあるゼノスの故郷にくるのに、1年半の歳月を費やしていた。














 

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