雑貨屋「ミスルトゥ」
カズマとゼノスは、再度ハンター協会の受付に戻り、紅牙大熊と雷呼鳥の討伐報酬を受け取った。
「大金貨5枚に金貨7枚、すごい金額(約五千七百万円)になったね。」
「まあ、今回の獲物はAランクとBランクの魔物だったからね。並のハンターでは倒せない獲物だよ。」
ゼノスはニヤリと笑うと、カズマの頭をワシワシと大きな手のひらで撫でた。
「もし、Aランクの魔物を王国で討伐しようとすると、百から三百程の騎士(軍人)が必要になる。それもいつ会えるかわからないから一か月は見積らないといけない。空を飛ぶ魔物に対しては魔術か特注の武器も必要になるだろう。騎士の給料及び補給物品に諸々の経費を計算すると大金貨三十枚(三億円)は余裕で掛かるな。」
「確かに、狙って討伐したわけではないとは言え、雷呼鳥を倒せたのは奇跡に近い…。」
「という訳で、軽く見積もっても今回の報酬(約五千七百万円)の6倍は掛かる討伐費用に比べれば、さらに王国にしてみれば、かなりの経費削減、お得な取引だったってことだ。」
「それでこれは、カズマが狩ったものだ。カズマが持っておくといい。まあ、実際に持ち歩くには高額すぎるから、ハンター協会に預金すればいいから、口座の開設もしておくか…。」
ゼノスが淡々と手続きをしていく姿を見ながら、カズマはハンターランク最上位のアダマンタイト級ハンターを家庭教師に雇うって、どのくらいの金額になるのだろうか…、と冷や汗を流すのであった
「これから行くのは錬金術師の店だ、宝石店や雑貨屋でも、魔石の加工はしてくれるが、どちらにせよ魔石を扱うなら、外注して行きつく先は錬金術師のもとになる。今日中にってことなら、俺の知り合いの錬金術師に頼むのが一番だ。」
「錬金術師はどのような人たちのことを言うの?」
「そうだな、ぶっちゃけ魔術師になるのを諦めた人かな?」
「えっ、本当にそんな人がなれるの?」
「すまん、言い過ぎた。実はな、今のは極論で、そもそも錬金術師には魔力量の少ない者でもなれる。だから、戦闘で魔術師程度の攻撃魔術を使うには魔力量が少ない者、また、学者気質で魔術の知識を純粋に研究する者がなる場合が多い。今から行く店の店主も元は魔術大学で魔術を学んだものの、魔力量が少なく、冒険者にも、大学で研究を続けることもできなくて、古物商(アーティファクト販売)をしているんだ。その他に、魔石の加工とか、ポーションの作成販売とかも副業でしている。安心しろ、昔からの顔見知りだ。」
ゼノスに勧められてやってきたのは、町の中心であるハンター協会から3キロくらい離れた住宅街に面した平屋であった。一般的な木造の店なのだが、なんというか、ボロい。周囲の建物とのギャップにカズマは少し不安になってきた。
そもそも、驚いたことに町の建築技術は進んでおり、4階建て、3階建ての建物もあり、城下のほとんどの店は1階が店舗で2階が居住区となっている。住宅街においても2階、3階建ての家がほとんどでそんな中、1階建ての平屋がポツンとあるのは、逆に珍しくてカズマの目を引いた。
それでも、ちゃんと木造の塀に囲まれていて、敷地自体は周囲の家の3倍から4倍はある。庭には薬草や菜園なども見える。さすが、古物商だけあって、謎の半魔半人の石像やトーテムポールのような柱が建物の入り口まで続いていた。入り口には"ミスルトゥ”と看板が出ていた。
「入るぞ~。」
"もっと他に言い方ってものがあるだろう。”
少し赤面しつつもカズマは店の敷居を跨いだ。
「いらっしゃい。おや、久しぶりだね。ゼノス…。」
カウンターから顔を覗かせたのは、一人の女性だった。ただ、あまりにも顔の作りが整っていて、美人であり、カズマは思わず我を忘れて見つめてしまった。
「久しぶりだな、リヨン。3年ぶりかな。」
「もう、そんなに経つかね。最後は確か、そのマントに自己修復の魔法付与をした以来だね。ところで、お連れさんはどのなたかね?」
「領主の三男のカズマ様だ。今はこの方の家庭教師をしている。」
「この忙しい時に家庭教師とは、よっぽど見込みがあるんだね。」
「ああ、それについては俺が保証する。逸材だよ。」
「はじめましてカズマ様、このミスルトゥの店主をしておりますリヨン=ブルゴーニュと申します。見ての通り、ハーフエルフです。今後ともご贔屓にお願いします。」
「カズマ様、挨拶を…。」
ゼノスの呼びかけに、ボーっとして見つめていたことに気付き、さらにカズマは顔を赤面させてしまった。
「失礼しました。ベルシュタイン伯爵家、三男のカズマ=ベルシュタインです。本日は魔石の加工をお願いしに参りました。」
皮袋から、カズマは紅牙大熊と雷呼鳥の魔石を取り出し、カウンターに置いた。
「これは、Aランク相当の魔石だね。これはBランク。」
リヨンは魔石を取るなり、魔石のランクを当ててみせた。ちなみに、ランクは魔石の持ち主であった魔物のランクとほぼ同じになる。魔石に込められている魔力量は魔獣の強さに比例するのだ。
「ふむ、どちらも含有する魔力量は申し分ありません。これならば、小型の飛空艇のメイン動力にすることもできる。ある程度の魔道具なら作成可能です。」
何を作成しましょう、目を輝かせているリヨンを見ると申し訳なく思いながらもカズマはここに来た目的を言った。
「実は、お土産にネックレスを作って頂きたいのですが、魔法付与付きで、出来ればこの二つの魔石は紅牙大熊と雷呼鳥のもの、炎と雷の属性付与などが出来ればいいのですが…。」
「もちろんできますよ。お相手は女性ですか?」
「はい、妹とそのメイドにプレゼントしようかと…。」
「それでしたら、ネックレスにしましょう。魔石の大きさも圧縮して丁度いい大きさにしますね。」
「お渡しはいつをご希望でして?」
「出来れば、本日の夕刻までにお願いしたいのですが…。」
「急ですね、けれど、大丈夫です。1刻ほどお待ちいただけますか?魔石を見ていたら、イメージが頭に浮かびましたの…。最高の贈り物にしますね。」
「よろしくお願いします。」
リヨンは拳大の魔石を両手で持ち上げると、奥の作業部屋に持って行った。
「只今、戻りました。」
ハンター協会から先触れが城に知らされており、帰ってくるとすぐに二人は謁見室に通された。
久しぶりの我が家にカズマは郷愁を感じていた。
”はじめはあんなに広くて落ち着かない場所だったのに、今ではやっと家に帰ってきたと思える”
もう、ここが我が家になったんだな…。カズマは約6年という歳月の経過を感じていた。
「よく魔物を討伐し、無事に帰ってきた。カズマ、見違えたぞ。大きくなったな。」
「はい、実戦を経験し、魔獣の強さを思い知りました。」
「そうか、魔獣に比べ、人間は弱い。しかし、知恵と技術で人間は生き抜いてきた。そして人々を魔獣から守る者がハンターだ。そして、代々ハンターの役目を継承している村がゼノス殿の出身地でもあるドラゴス村だ。」
「ゼノス殿、Aランクの雷呼鳥、Bランクの紅牙大熊を討伐したとは本当か?」
「はい、本当です。わたしはこの2匹の魔獣について一切の手出しをしておりません。カズマ様はハンターの素質があります。」
「そうか、ゼノス殿、以前にお話していたハンターへの修行の件、改めてお願いする。」
「承知致しました。」
「カズマ、お前は来年で6歳になる。ドラゴス村の男児は3歳からハンターの教育を受けているそうだ。6歳では遅いかもしれないが、お前には親の贔屓目を除いても素質がある。春からドラゴス村でハンターとしての教育を受けなさい。昨今は人智を超える魔物が発生している。一人でも多くの優秀なハンターを世界は求めている。立派なハンターとなって将来、ベルシュタインに戻って来て欲しい。春までしっかりと準備をし、体を休めなさい。」
その日の晩餐はとても豪華なものであった。
母ソフィアは久しぶりにカズマの好物であるミートローフを作ってカズマの労をねぎらった。
食後にはエレノアとモーラに魔石を加工したネックレスをプレゼントして喜ばせ、修行のため留守にした際の機嫌はすっかり戻っていた。
カズマは春からの修行の件をエレノアにどう言い聞かせれば良いかと頭を悩ませながらも、長い間家を留守にすることとなるであろう修行について思いを馳せていた。
旅立ちの日は近づいていた。




