目覚め
ぴくっ、ぴくぴく…。
人は何かを隠そうとすればするほど、どこかで無理がでるものである。
カズマの場合、片方の眉がなぜか悲鳴をあげるように、痙攣を繰り返した。
「カズマ、起きているのか?」
「はい、申し訳ございません、たった今起きたところです。」
記憶はさっぱり戻らないが、不思議と相手が自分の父であることが分かった。
それとともに、相手の言葉の意味も、自らが発した言葉も、さっきの二人の会話も電気回路のスイッチが頭の中でオンとなったかのように理解することができた。
カズマの視界に映る二人は、見覚えのない、如何にも貴族であるような彩りの華やかな服装で着飾った男性と、しっかりとした生地が一目でわかるメイド服装の女性であり、カズマを更に混乱させ一瞬、息を吞んだ。
30歳くらいの精悍な青年と、20代前半くらいの顔立ちは美しいがやや翳りのあるメイドが心配そうに横になっているカズマを覗いていた。
「ここはどこだかわかるか?」
「いえ、正直記憶があいまいで、よくわかりません。」
そう、自分がいたのは、こことは別の次元のもっと技術の進歩した場所…。
一瞬、何か巨大な建物や人々がひしめき合う光景が頭に浮かんだが、激しい頭痛とともにその映像はかき消された。しかし、カズマと呼ばれて自己を認識できたのか、ようやく自分の名前を思い出すことができた。
カズマ=フォン=ベルシュタイン。
プロスブルグ王国の創立から代々と国王に使える由緒ある伯爵家の三男。
イケメンの顔を台無しにするくらい眉を寄せてこちらを見つめる父の名は、ブラム=フォン=ベルシュタイン。プロスブルグ王国南部に位置する王国第5位の広大な領地を治める南部辺境伯現当主である。
もう一人のメイドは、昔から当家に使えるメイドの家系であるウィッシュ家の長女、アリス=ウィッシュである。
「昨日、乗馬訓練中に頭から地面に落ちて、大怪我をしたんですよ。とっても心配したんですから…。」
無事にカズマが目を覚ましたことで、張りつめた心の琴線がとけたのか、アリスはじわりと涙目になり、しまいには口を両手で抑えたまま、ぽろぽろと涙を流して泣き出してしまった。
「心配をかけてごめんなさい。」
ああ、この人たちは家族なんだな。
カズマは曖昧な記憶の中、自分の居場所がここであることを実感し、少しだけホット息を吐いた。