モーラ
"猫"
周りは私を"ドブ猫"と呼ぶ。
ここに来た時は"捨て猫"で、今はきたなく汚れて"トブ猫"だ。
"本当に猫だったら良かったのに…。猫であったなら、こんな辛い思いをしなくて良かったのに"
汚い街外れのテントの外で、檻の外に繋がれた少女がいた。
猫の耳と尻尾を持った種族、クーン族の生き残り。
不意に少女の頬に涙がつたった。
埃まみれの少女の頬は、何本にも涙の跡が残っていた。
左腕で涙を拭おうとするとじゃらりと鎖の音が鳴った。
錆ついた鎖のつながった首輪と腕輪…。ひと月前までは無かったもの。
たった、ひと月しかたっていないのに、今まで生きてきた人生の中で、少女が集めてきた大切なもの、そのほぼ全てが失われた。その運命に、少女は改めて過酷な世界であったことを実感した。
「もう、そっちに行ってもいいよね、私ね、頑張ったよ。頑張って生きようとしたよ。
でも辛いよ、みんなのいない今は、もう限界だよ…。お母さん、お父さん、ミーナ…。」
今ではもうこの世にいない家族、他の生き残りも既にバラバラになってしまった。
なんで世界はこうも辛く当たるのだろう、故郷は魔獣に滅ぼされ、逃げてきた仲間は騙され、殺され、
しまいには、奴隷商人に売られ、今はもう彼女一人。左腕が、腕に付けられた焼印が疼く。
少女の猫耳がぴくりと震えた。
蹄の音が聞こえる。
「クーン族は彼女しかいないのだな?」
「はい、あっしが保護したのは、彼女だけです。」
「では、彼女を連れて行く。」
「そんな、伯爵様、彼女は金貨3枚で買い取ったのです。」
「彼女の故郷は魔獣被害にあったのだぞ、そして被害を認定された。彼女は保護対象者だ、如何なる理由も聞かぬ。逆に、罰しないだけでも感謝したまえ。」
お付きの騎士が奴隷商人に罵倒する。
「君、名前は?」
「モーラ」
少女は伯爵にそう答えると、糸が切れたように意識を失った。




