動乱の気配
子供は親の変化に敏感である。
それは、子供にとって唯一の保護者であるからなのかもしれない。
カズマにとっても同様で、近頃の両親の様子から確かな異変を感じ取っていた。
それは、一歳年下の妹、エレノアも同じであった。
「カズマ、お父様に何かあった?」
今だ、カズマを兄と呼ばない妹に苦笑しながらも、上の二人の兄と姉が幼年寄宿学校に入っており、小さいエレノアにとって本当に頼れる人が自分しかいないのだと認識し、安心させるように話しかける。
「大丈夫だよ、確かにここ数日、城内の雰囲気が暗いけれど、何も心配ない。」
少しかがんで、エレノアの目線に合わせてあげる。
「それでも心配なら、お母様に直接聞いてみるよ。」
「大丈夫よ!!」
エレノアは不安な顔をしながらも、兄に不安な気持ちを悟らせまいとくるりとカズマに背中を見せ、トコトコと自室に去っていった。
「何か、あったのは確かなのに、なぜか母様もアリスも僕らに隠そうとしている節があるんだよな。」
噂はどこにでも転がっているものである。カズマは城内を散策し、何かヒントがないか探してみることにした。
さて、どこから行こうかな、ウインダム城は古く500年以上の歴史を持つ、その長い歴史の中で増改築が行われ、かつて父の話によると、「その見取り図は失われており、全ての部屋を把握しきれていない。どこかに秘密の隠し部屋があるのかもしれない。」とのことだった。
カズマは午後の昼寝の時間にコッソリとベッドから抜け出すと、アリスがまだ帰ってきていないことを確認し、いそいそと部屋を出た。
板張りの廊下を足早に、かつ音を立てないように進む。
廊下の窓から差し込む光は、秋の澄んだ空から注がれていて、時折その光の中に入ると背の低い影が灰色がかった白い壁に映し出された。
まずは、父上の部屋からである。父ブラムは2週間程前から城を開けている。秋の収穫に向け、領内の作物の状況を視察に行き、その出来具合で今年の税を決めるらしい。
まだ、自分の片手で回すには大きいドアノブを両手で回しゆっくりと手前に引くと、ガチャンと鍵が掛かっている音を聞いた。
「やっぱり、鍵が掛かっているか。」
むしろ、鍵が掛かっていない方が問題か、と自分を納得させて次の部屋に向かう。
”母上の部屋か…。”
と考え、いや、何か変なものを見つけたら、母をまともに見れなくなる。
少し阿保な考えをしながら、順当に行けばやはり、執事部屋だな。
執事部屋は、父の部屋の真下に位置している。これは何かあれば直ぐに駆けつけられること、床の軋みから、主人の行動をある程度把握できるようにするためである。
宙に舞う埃に反射され、優しく温かい光が部屋を満たしていた。
父の部屋と比べて、さすがに質素であるが、それでも腕の良い職人が作った上質な家具であることは一目でわかる。
ごそごそと、机、書棚と中を確認する。
すると、意外な羊皮紙が出てきた。開いているが、ベルシュタインの軍馬の家紋で封蠟されている。
送り主は、父、ブラム=ベルシュタインから執事フィリップに宛てた手紙である。
5歳児でも立派に文字が読めるため、内容は間違いなく確認できた。
まさに、ここに書かれていることが、城内の雰囲気を暗くしている原因である。
父からの手紙は要約すると、プロスブルグ王国の北に位置するグリュンベール地方に新たな竜が現れたこと、そのおかげで、逃げてきた魔物が領内に大量に現れたこと、さらにその竜の討伐に失敗し、大勢の力あるハンターが亡くなったこと、自らはその対応に向かうことが書かれていた。
貴族の形式ばった挨拶から始まる文章ではなく、本文のみの手紙、筆跡の乱れから急いで手紙をしたためたことが分かった。さらに最後には家族への別れの言葉と、もしもの時には家督を長男、ブリューノに譲ることが書かれていた。
手紙を読み終えた時、自らの鼓動が早くなっていることにカズマは気づいた。




