力の限り生きて、己の技を磨く
冷たい風が小高い丘の上から草原へと駆け下り、朝靄の間から緑豊かな草原をなびかせた。
まるで、風の精霊シルフがこの戦場を観戦しに、今か今かと待ちわびているようであった。
「霧が晴れるな」
僅かに差し込む日差しが、轡を並べるジョセフの額を照らし、時折眩しそうに顔をしかめると無表情で草原を見下ろすカズマに言った。
「ああ、戦いを始めよう、この戦が明日の王国の運命を決める」
強靭な眼差しを返す友人を、ジョセフは不安と使命感で高鳴る鼓動を感じつつも、カズマは逞しく成長したなとニヤリと笑みを浮かべた。
草原は千を超える戦士たちの甲冑の反射で光輝いていた。
目覚めるとそこは、見知らぬ天井であった。むせ返るような濃い木材の匂いと、普段耳にすることのない家畜のいななきで、深い眠りから急速に意識がクリアになっていく。
僅かの混乱から目をシパシパと瞬きしながら、現状を確認していく。
まず、腕が重い。目で確認するとこれは、オレンジ色の布が体を覆っているためだ。布の下で足をもぞもぞさせながら起きようとするが意外と力が入らない。もしかしたら何日も眠っていたかもしれない。
そういえば喉も乾いているようだ。
億劫になり、しばらく視線だけで周囲を確認するが、木造の掘っ立て小屋の中にいるようだった。
なんで自分はここにいるのか、いくら思い出そうとしても一向に思い出せない。この建物についてもアメリカ開拓時代の映画で見たような素朴な作りで見覚えがない。ここはどこなんだろう?途方に暮れかけた時、ギーと扉が開く音が聞こえた。
「それでカズマの具合はどうなんだ?」
「初めての乗馬中に落馬して、頭を強く打ったそうです。運悪く岩に当たったそうで、額から血を流していました。その後、急いで神殿で治療を行ったのですが目を覚まさず、昨日からぐっすりと眠っておられます。」
「やはり、自分が傍についておれば良かったか、指導役のグレンはどうした?」
「坊ちゃんが運び込まれた後、自分のせいだと取り乱して、半狂乱になっておりました。執事からの指示で宿舎に待機させております。」
「神官は何と?」
「岩の尖った場所に額が当たったらしく、とても深い傷だったと、最上級の奇跡で回復させたから後遺症はないと仰っておりましたが、いつ目を覚ますのかは神さまの御心次第だと…。」
「そうか、カズマの名はエルフェルミナ神から特別に賜った者、加護がついているから心配はないと思うが…。」
「はい、過去に神から名を頂いた者は、後世に名を残す傑物になっております。しかし、この度の怪我の後は、今までで見たことがない程、とても深い眠りについているようで、呼吸も浅く心音も僅かだとか…。」
うわっ、いきなり人が入ってきてしまったから、つい寝たふりをしてしまった。
カズマは鼓動が高まるのを必死に抑えながら、できるだけ自然に眠っているように見えるよう、そっと瞼を閉じた。