いつもの味
夢を見ていた。
毎日がキラキラ輝いていてヤル気と活力に満ち溢れている。やりたいことができて周りからも頼りにされて友人もたくさん、彼女もできて充実した生活を送っていく。
でも、現実は非情だった。
輝かしい毎日なんか幻想で、やる気と活力はつぎはぎのハリボテだった。
上司からの叱責に耐えて、終業後は飲み会。ストレス発散のためといい過剰にアルコールを摂取させられる。家に帰ると疲れ果てて、風呂にも入らずそのまま寝る。そして朝を迎える。
何度もやめたいと思った。これは自分が求めているものではない。でも、相談に乗ってくれる人がいない。そもそも、やめたらなにをすればいい。負のスパイラルに陥っていた。
そんなある日、実家から荷物が届いた。米・調味料・缶詰などが大量に入っていた。何事かと思ったが、同封されていた手紙にこう書いてあった。
『あんた、最近連絡せんけど大丈夫なん?今度行くけん、部屋の掃除くらいしとくんよ』
弟に宛てた手紙だとすぐにわかった。弟は大学に入ったばかりだし、実家から距離もさほど遠くない。わざわざ田舎から東京に来るなんてありえない。
仕方がないので、弟に荷物を送るために外に出ようと準備していると、
ピンポーン
インターホンが鳴った。
「はーい!」
ロックを外して、ドアを開ける。そこにいたのは・・・・・・
お袋だった。
突然の出来事に呆然としている俺を無視して勝手に上がり込んで、
「こんなに汚して、もう!ごみはその日のうちに片づけるように、って言ってたでしょ!」
ぶつくさと言いながら勝手に部屋を片付けていく。
ただただ呆然と立ち尽くしているうちに、部屋はきれいになるし、洗濯ものは片付くし、料理も出てきた。
「さあ、冷める前に食べなさい」
差し出された料理に目向きもせずに、お袋に最初から聞きたかったことを言う。
「ちょ、ちょっと、なんで来たの?」
「手紙に行くって書いてたでしょ!?」
「これ、アイツと間違って送ったんじゃないの!?
「当たり前でしょ!!あんたが連絡のひとつもよこさないから心配になってきたのよ」
「・・・・・・」
何も言い返せなかった。そんな顔を見て察したのか、お袋は和やかな顔で、
「とりあえず、今は食べなさい」
片づけられたテーブルには、ご飯、みそ汁、だし巻き卵があった。学生時代からの朝食だ。自然と食欲がわいてきて、箸を動かす。懐かしい味。心が温まっていく。
涙が零れていたことに気が付いたのはなんと食事が終わった後だった。
「ごちそうさま・・・・・・」
「はい、お粗末様」
お袋は何も言わずに、皿を洗う。
「あ、あのさ、・・・・・・連絡できなくて、ごめん」
心からの言葉だった。仕事が忙しかったことは事実だが連絡ができなかったわけではない。お袋の行動から、相当心配をしていたことはわかった。
「いいのよ、そんなことは。それより・・・・・・辛くなったらいつでも帰ってきなさい」
食器を洗い終えると、お袋は荷物をまとめ、そそくさと玄関に向かった。
「お母さんは、いつでもあんたの味方だからね」
扉が閉まる前に『お母さん』が言った言葉は、今でも覚えている。
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