元最強魔術師、完敗する。
同じ夢を見た。昔から何度も。
自分の仲間たちと共にまさしく死闘を繰り広げ世界の平和を脅かす魔族と戦う夢を。自分は世界最強の魔法使いとまで言われていた。
しかし、魔王と相討ちで夢は終わった。
魔法なんて自分が使えるなんてイメージが湧かなかった。
魔法の源となる魔力は精神に宿る。産まれて使えなければ才能がない。
自分は騎士の一家に産まれて剣の腕を磨いた。
15歳で成人し翌年から王都で騎士学校に入る予定だった。
その日、山に籠り剣の修行をしていたとき魔物と出会った。
魔物は500年ぐらい前に魔族の王が死んで以来数が減っており出会うことはそうそうなかった。
「俺が成人して初めての相手が魔物か。悪くないな。」
剣を構え蛇型の魔物と距離を測る。
魔物と動物の差は魔石が埋め込まれているかぐらいである。
魔石の力を用いて魔法を使って来るが大したことはないらしい。
魔物に埋め込まれている魔石が無色であることから身体強化の魔法を使うことを昔に本で読んだ知識を思い返す。
蛇はトグロを巻き攻撃体勢に入り勢い良く飛び込んでくる。
普通の蛇より何倍も速いため転がるようにして避けるのが精一杯だった。
何度も飛び込んでくる魔物の動きに慣れ始め避ける際に剣で切りつけるが効いている様子がなかった。
「やはり魔石を狙うしかないのか…」
魔物の弱点は魔法での攻撃もしくは埋め込まれた魔石の破壊である。
しかし、魔法を使うことが出来ない自分には取れる方法は1つだった。
捨て身の覚悟で蛇の突進に合わせて剣を突き口の中にある魔石を砕いた。
やった と呟いた時に、腕から鈍い痛みがした。蛇の牙で腕を怪我していた。
『魔力っていうのは精神に宿るんだ。』
どこからともなく声がした。大昔から言われる定説。
『精神っていうのはいわゆる記憶に宿ると思うんだ。俺が死んでも生まれ変わっても記憶を呼び起こせるようにすれば遺伝や環境によって魔力が左右されないと思うんだ。』
なんだ、誰の声だ。
『この魔物、俺が使役したこいつに俺の記憶を写した魔石を取り込ませて生まれ変わった自分が倒せる年齢になったらこいつが現れるようにする』
「思い出した。」
声は自分の中から聞こえていた。
「俺は魔王と相討ちになり…うっ…」
魔力が溢れる。
魔力がなかった人間に過去最強と言われた魔法使いの魔力が入ったことにより魔力が暴走を始めた。
「この身体何かおかしい…」
そして気を失った。
気が付くと山が燃えていた。日はいつのまにか暮れているが炎のせいで明るい。
山の中腹位にいたはずだがいつの間にか山頂におり見渡す限り火の海となっていた。
思い出した前世の記憶を頼りに水の魔法を使い消火しようとするが身体を動かすことが出来ない。
身体は勝手に動き剣を振る度に炎が出て山を焼く。
「おやっさんに言われて来てみれば坊主がこの火事の犯人か。」
いつの間にか目の前に長身の男が立っていた。見た目は冴えないが覇気というのだろうか前世では見たことがない強者の風格だった。
「に…逃げろ…」
身体が勝手に動き男に斬りかかる。
魔力を宿した刃ではこの男もきっとただでは済まないだろう。
しかし、男は斬りかかって来た剣を軽く弾き柄で俺の身体を吹き飛ばした。
「もったいない魔力の使い方してんな。宝の持ち腐れだぞ?」
『全知全能の神』
口が勝手に動き身体が魔力を纏った。
人間の動きではない速さで男に切りかかるが全ていなされひたすらぶたれる。
「そろそろ終わりだ。付加炎帝」
男の刃に先程まで俺が出していた炎と比べ物にならないほどの高温の熱を宿す。前世では見たことのない魔法にどこか楽しんでいる自分がいた。
気が付くと体内の魔力が減ったおかげか身体を動かすことが出来た。
前世最強と言われた俺がどこまで通じるか試そう。
「ん?坊主、目が覚めたか」
「おかげさまでな」
「名はなんと言うんだ?」
「レンだ」
「そうかお前が…俺は炎帝。ただの肩書きだがそう呼んでくれ。」
この強者に、全てをぶつけよう。
「ゼウスの雷」
自分が纏った魔力を使い雷を放つ。
「魔炎切り」
山を燃やした炎が刀に集まりレンの身体を切りつけた。
負けた。魔力が不安定だったにしても魔力量で言えばこちらが圧倒的だったよに手も足も出なかった。
「魔力の使い方がもったいないな。」
仰向けに倒れ全く動けない俺の頭上から声が聞こえる。
「まあ強くなりたかったら王都にいって魔導学園で魔力の使い方を学ぶこったな。」
そう言って男は、炎帝は立ち去って行った。
「…まじか。立ち上がることすら出来ない若者を置いていきおったぞ…」