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畏れながらも、奴隷でございます  作者: 無花果あやめ
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畏れながらも、奴隷でございます 17

ジアさんが窓の外からこちらを覗き込む。何やら話しているようだが、声が届かない。サラ様が鍵を開けると、外から扉が開けられた。


「到着いたしました。もうじき日が沈みますので、一旦軍の宿舎に移られるのが良いかと」

「お疲れ様でした。苦労をかけましたね」

「勿体無いお言葉です」


ジアさんがサラ様に頭を下げる。鎖を引かれて、あやめも馬車から降りて砂漠に降り立つ。相変わらず、ガラガラとした石が多い砂地だ。


「何もされなかった?あやめちゃん、大丈夫だった?顔色が悪いけど、本当に大丈夫?」


ライヤさんに顔を覗き込まれる。


「何もありませんでした。顔色が悪いのは恐らくですが、馬車酔いの類かと。久しぶりに、後ろ向きに進んだので」


水を受け取り、喉を湿らせる。返そうとすると、飲み干すように言われた。同時にチーズと果物を渡され、言われるがまま、全部を胃におさめた。



「そろそろ向かいましょう」


飲み込み終わったところでサラ様が口を開く。砂漠の風に吹かれて、長い髪が絹のように揺れた。綺麗だ、なんて思っていると、白い布でそれが覆われてしまった。


「あやめも、これを。建物に入るまでですから、少しだけ我慢してください」


頭から黒い布を被される。大きな布をライヤさんが整えてくれ、目元以外を包まれてしまう。何やら目隠しのようなものをされて、視界が薄墨色に陰った。ライヤさんも同じ格好をする。ジアさんはサラ様と同じ、真っ白い布を全身に纏っていた。


サラ様の右後ろ、一歩引いたところで彼について歩く。あやめの後ろにはライヤさんが続き、3人をジアさんが先導していく。辿り着いた石造りの建物に踏み入れると、中にいた壮年の男性が数人、恭しく頭を下げた。


「遠く皇居よりお越しいただき、感謝申し上げます」

「こちらこそ、出迎え感謝します。例によって人質をウルド国に引き渡すため、一晩こちらに滞在します」

「承っております」


代表者らしい、かなり高齢と思しき男性が歩み出てサラ様の前に跪く。


「ご無沙汰しております。お変わりないようで、何よりにございます」

「こちらこそ。変わらず良くやってくれているようですね」

「勿体無いお言葉でございます」


そこから先、何やら言葉を交わした彼らが握手をする。短いながらも挨拶を済ませてから、別の建物に通される。そこにはターリャさんが待ち構えていた。



「体調に問題がないか、聞いてもらえるかい?」


奥の寝台に寝かされた身内との通訳を任される。黒ずくめのあやめを見て、彼女はだいぶ驚いた顔をしていた。


「問題ないそうです」

「それは何より。改めて確認だが、今夜、満月が一番高く登るとき、隣国ウルドに身柄を引き渡す。それ以降はウルドと本人次第だ。いいね?」


通訳すれば、大丈夫、と小さく答える。むしろこちらの身を心配している彼女に、昔と同じように笑って見せた。



身内同士、積もる話もあるだろうと、サラ様が鎖を外してくれた。布を取ることはできないらしく、黒ずくめの女同士、寝台に腰掛けて顔を見合わせた。


「これじゃ姉ちゃんの顔がよく見えないね」


コロコロと笑った彼女の目元にクマはない。よく眠れているらしい。


「こんな格好してるけど大丈夫。みんな良くしてくれてるよ」

「本当に大丈夫?」


黒ずくめの服装をさせられて言われても、説得力もあったものではないだろう。それでも、あやめは無事なのだ。今日を生きていて、おそらく明日も生きているのだから。


「もちろん。あと、ごめんね」

「ごめんって、何が?」

「まぁ…色々。帰らなかったこととか、もっと早く会いに行けばよかったし」


もっと早く、会いに行けばよかったのだ。聞けばよかったのだ。彼女の手は、以前見たときはとても細くなっていたし、カラカラに乾いていた。


「私は大丈夫。もう帰れるんだもの。それより、本当に大丈夫?」

「大丈夫だよ。勉強もさせてもらえるし、睡眠も食事も保証してもらえてる」


奴隷だ、というのは隠しておいたほうがいい気がする。ピアスが見えないことは分かっていても、彼女がいつものように左側にいてくれることに、心からほっとしてしまった。


「さっき、鎖で繋がれていたでしょう?そんなことされて、ハナ、心配よ。本当に、大丈夫?」

「大丈夫大丈夫。そういう規則なんだって。ほら、宗教とかあれこれ色々」


納得していない様子だけれども、彼女は分かった、と頷いてくれた。他愛もない話をしているうちに夜が来て、食事に呼ばれる。次に会うのは、引き渡すときだと言われて、最後に抱きつく。聞こえないあやめの右耳に、彼女が何か囁いた。きっと「ごめんね」か、あるいは「ありがとう」だと思った。

主人の夕食に給仕をして、身支度を手伝い、気付けば夜も更けていた。どおりで眠いわけである。月が空高く昇った頃、外に連れ出される。鎖で繋がれたあやめとは対照的に、人質である彼女は何も繋がれていない。ターリャさんが手を引き、ライヤさんが付き従う。国境に向かい、ジアさんの先導で歩き始めた。

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