畏れながらも、奴隷でございます 10
誰かが話す声がする。二人、片方が謝っている。泣きそうな声をしている。
ぼんやりと意識が浮上する。不意に、枕元で声がした。
「楽しませてあげられたら、良かったのですが」
サラ様の声がする。これは恐らく、あやめに言っているのだろう――何となく、そんな気がした。
「楽しかったです」
眠たい目を開けて、主人を見上げる。ここは確か、その寝室ではなかっただろうか。ふかふかの寝台に寝かされて、体も動かない。
「それなら、良いのですが。それより、気分はいかがですか?不快感や吐き気、頭痛や腹痛、どこか痛むところは?」
「何もありません。強いて言うなら、眠くて動けません」
「それは良いことです」
嬉しそうに笑って、主人が手を伸ばす。そっと指先で、布団を直してくれた。柔らかなそれが頬を擽る。
「今は夜中です。もう少し、眠っていてください。朝になれば、果物をたっぷり、差し上げますから」
「ありがとうございます」
眠たい頭は上手く働かない。ふと思ったことが、口から零れ落ちるのも、そのせいだろうか。
「どうしてサラ様は、奴隷に優しいのですか?」
「奴隷を死なせることは重罪ですからね。死なずとも、貴女に何かあると、困るのは私だからです」
なるほど。重たい瞼が落ちてくる奥で、黒い髪が揺れて、色白の頬が笑みを浮かべたように見えた。
「おやすみなさい」
低く甘い声に誘われるように、もう一度眠りに落ちていく。それなら、主人の迷惑にならないよう、一刻も早く回復しなければ。
「サラ様」
かけられた声に振り返る。二つの盆を持ったジアが、部屋の入り口に立っていた。
「あやめは?」
「先程、眠ったところだ。朝にはまた、目を覚ますといいんだが」
食事を持ってきたのだろうが、無駄足になってしまった。自分の分だけ受け取り、スープを飲み干す。冷たいそれが、内臓にしみわたる。知らず知らずのうちに、サラ自身も脱水していたのだろう。あやめには、本当に酷なことをした。
「重罪人になっても、文句は言えないな」
重たい空気を振り払おうとしたつもりが、ジアには逆効果だったらしい。どんよりとした彼は、図体が大きい分、余計に落ち込んで見えた。