死神の囁き
私は明るい日が差したお花畑に身を任せていた。
「私はどうしちゃったの?」
目の前にはあの時に出会った黒い人間の影があった。
「やっと、来てくれたね。待ちくたびれたよ」
「さあ、これから君は僕達と一緒に暮らすんだよ」
「ここはいいでしょ。空気はおいしいし、空はいつでも青いし、夜はいつも満天の星空が眩しいほど煌めいている」
「ここは君の今まで自分の身に起こった不幸なことを癒してくれる楽園だよ」
二つの影はだんだんと白く透明になっていく。
「待って。私はまだ休むわけにはいかないの。真斗達と一緒に世界を救うの!」
「もう、無理だよ。君はこっちに来ちゃったんだから。向こうへはもう戻れない。心残りがあるのは分かるけど、これは君自身が決めた運命だよ。僕達でも鬼庭さんでも、ましてや神様でもないんだ。運命はもう変わらない。君がここへ来ると決めたからもう逃げられない。いや僕達が逃がさない」
私は一瞬怖くなって後ずさりをした。
「大丈夫だよ。君の願いはまだ生きている。君はよく今の今まで頑張ってきた。もう潮時だったよ。君の家族と呼べる人達は何人も死んだのに君はまだこっちへ来なかった。いやー大変だったよ。君をここまで連れてくるのは」
「まさかあなた達、わざと…」
影の一人が私の口を塞ぎ、にっこりと白い歯を見せて笑った。
「だって寂しかったんだもん」
「さあおしゃべりはここまでにして、遊ぼうよ、僕達と一緒に」
私の顔の前で笑みを浮かべていた影が突然私の手を握り、走り出した。
「待って! 私やっぱり…」
「しつこいよ!」
私の手を握った影が私を睨み付けた。
すると瞬く間にあたりが暗くなり、満天の星空が青空を埋めた。
「君は死んだんだ! 君の役目は終わったんだ! 君はもう僕達のものだ。決して逃がさない。一生僕達と遊ぶんだよ!
君が腹が減ろうが、頭が痛かろうが、骨が溶けようが、心臓が止まっただろうが知ったこっちゃない。これは君が決めた人生だ。僕達はその人生まで導いてあげただけだよ。僕たちの導きを無視してもよかったのに君は僕たちの囁きに耳を傾けてしまった。きみ位は誘われたんだ。これは君が決めた運命だ!」
私は引きずられるようにどこかへ連れていかれた。
「さあ、今日から僕たち三人は運命共同体だ。仲良く遊ぼうよ」
怖い。恐い。コワイ。
でも、私は死んでしまった。いやこの人達に殺された。
この人達のせいで私の希望は途絶えた。もう叶えることはできない。
私の希望がいつか実現することを信じて死んでいった人達はいっぱいいた。必ずその人達のためにも私は願いを叶えなきゃって心に決めたのに。
ごめんなさい。
でも、まだ真斗が生きている。それに私の子供達も。
希良、栞、浩太。後は頼んだよ。
私はここで死んだけど、あなた達なら必ずやり遂げるって信じてるから。
私の希望はまだ続いている。まだ私の意思を継ぐ者がいる。
意思を継ぐ者がいる限り希望は果てない…
私のそばには連翹のあの黄色い葉と寄り添うように白いアザレアが私のこの悲痛な感情を落ち着かせるように静かに咲いていた。
私は影達に引きずられている中で満天の星空を見た。その中に一つだけ大きく輝く星を見て、思わず私の目から最期の涙が零れ落ちた。