内通者
「真斗さん、明日香さん! 生まれたそうですね」
病室を思い切り開けたと同時に南君に続いて、マークスさんと慎吾君が入って来た。
「なんだ、お前ら。病院では走るなと習わなかったのか」
「うふふ、いいじゃないの。それほどみんな楽しみにしてたってことでしょ」
「ご無沙汰しております」
一番最後入って来た慎吾君に対してはどこか懐かしく感じた。
「おお、慎吾君」
「久しぶりね、もう大丈夫なの?」
慎吾君は何週間も見ないうちに、髪も肩ぐらいまでに伸びていて、それを一つに束ねていた。背もいくらか伸びたように思えた。
「はい。その節はお見舞いにも行けず、ご心配をおかけしました。もう大丈夫です」
「可愛いですね」
慎吾君との再会に感動していると、いつの間にか他の三人は私の周りを囲み、腕の中に抱いた赤ちゃんを覗き込んだ。
「この子が三男の浩太よ」
私は、そばで立っている真斗の方を指差した。
「真斗が抱いてるのが長男の希良よ」
「真斗サンと似てマスね。希良君は」
「もう一人の女の子はどうしたんですか?」
南は私が抱いている浩太の膨らんだ頬を触りながら、私に語りかけた。
「栞なら今検査にしてる。もうすぐ帰って来る頃だと思うんだけど…」
「プルル…」
「おい、ここは病院だぞ。電源切るのが鉄則だろ。ペースメーカーつけた患者が周りにいたらどうすんだ。せめてバイブにしておけよ、元医者だろ」
「すいません、忘れてました」
南君は笑いながらズボンの左ポケットから青い背をしたスマートフォンを取り出した。
「あ、林檎からメールです。えーと至急軍のメールを見ろ、だそうです」
「軍のメール? 何だそれ?」
「あ、実は我々も含めてディオス軍全員は敵の情報収集をやっていて、僕と林檎のパソコンでその情報を共有しているんです」
南君は急いで肩にかけていたリュックをおろし、中からかじられたりんごのマークがついた鼠色のパソコンを取り出した。
「ほう、お前も随分いいもん使ってるじゃないか」
「ええ、最新ですよ。鬼庭さんでは到底扱えない代物ですよ」
「そんなことわかってるから、早く開けよ」
「珍しく素直ですね」
「うるせえ、早くしろ」
「はいはい」
南君はカチャカチャと慣れた手つきでキーボードを打ち、いまだ未開封のメールを開いた。
「え…」
「何だ、どうした?」
「我々ディアブロ軍は一ヶ月後、国会議事堂を襲撃する。至急我々の作戦を拝見し、助けに来られたし。だそうです。しかもその下にはそれぞれの幹部の配置や彼らの行動手順を事細かに示した国会議事堂の見取り図が添付されています」
「何? 誰がそんなことを。海君か?」
「いえ、だって彼は記憶を…」
「じゃあ敵の軍にいる内通者か。一体誰だ?」
「それよりどうしまショウ。我々は止めに入るべきでショウか?」
「もしかしたら、俺達をおびき寄せる罠かも知れない」
「でも、もしこれが本物だったら日本が危ないデス。彼らは日本を占領した後で世界にも進出する気デス。倒せるのならこれが最後かもしれマセン。一応数日後に国会へ行って、様子を伺うだけでもやっておかないと…」
「そうだな、もしものことがあってはもう遅い。よし、そうとなれば急いでこっちも作戦を練るぞ。至急みんなをここに集めてくれ。このチャンスを逃して、世界まで規模を広げたらもう手を付けられなくなる。その前にこの五年間にも渡った戦いに俺達の勝利の二文字で終止符をつけるぞ!」
マークスさんと南君が病室を急いで出たと同時に、私の大切な宝物達が目を覚ました。
やっと、終わる…
先日投稿させていただいた中に時系列があやふやなものがありました。
ディアブロ軍は淳平を殺したその日に、明後日国会を襲撃する計画を立てたはずなのに、南やマークスらが病院で淳平の死を報告したのは一週間も立った後と記載しました。申し訳ありません。
「支配」:計画遂行を「明後日」から三ヶ月後に変更いたしました。(明日香の出産などもあり…)