芽生える命
「え…」
私と真斗は新しい命を授かったことによる幸せな笑みが一瞬にして消え去った。
「本当なのか?」
「一週間も報告遅れてすいません…」
「くそ、何でこんなことになったんだ? 君達もこの間に仕事を探して、金を稼ぐって言ってたじゃないか」
「真斗…」
真斗は鋭い視線を南達に向けた。しかし実際は自分がなぜその場にいなかったのか。なぜ助けられなかったのかという自暴自棄になって自分を責めているのは誰が見ても明らかだった。
病室に来た南君とマークスさんも真斗と同じ気持ちらしく、感情があまりこもっていない返事を永遠と繰り返すだけだった。
「その事で慎吾も精神的に病んでしまって、今は仮自宅で林檎に看病させてます」
「そうだろうな。自分が長年の人生を共に過ごしてきた大親友が、ある日突然記憶を失うんだから」
辺り一面が再び静寂に包まれた頃、南は俯いた顔を上げ、
「お子さん、三つ子だそうですね?」
と、薄い笑みを浮かべながら訪ねてきた。
「おめでとうございマス」
「あ、ああ、ありがとう。なんか不思議な感じだな、幸せと悲しみの感情がいっぺんに入り混じると」
三人に少しながら笑みが零れた。
「すいまセン、僕達のせいで雰囲気を壊してしマッテ」
「名前とかはもうお決まりで?」
「ん、ああ。ついさっき決めたばっかだよ。まあただまだ生まれてもないから未定だけどな。気が早すぎたかな」
「お疲れの中、突然こんな朝っぱらから押しかけてすいません」
「いや、いいよ別に。もう十分休んでたし」
私はベッドの横棚に置いてある一枚のポラロイド写真を手にした。
「はい、これ」
「これはお腹の中の赤ちゃんデスか?」
南君に渡した写真をマークスさんが覗き込んだ。
「ええ、この子が一番上の子で名前は希良、真ん中の兄ちゃんの方を向いているのが妹の栞、そのまた右で両手を上にあげているように見えるのが一番下の浩太よ」
「ま、三人ともまだ生まれてもいないから分からないが、三人とも普通の子だと思うぞ」
「そうですよね、自分の力が子供に遺伝することはないはずですから。子供も持っているということはそれは単なる奇跡的な偶然だと思いますよ。私の両親も何の力も持っていませんから。まあ、突然変異っていうことがあるかもしれませんが」
「不思議な気持ちですね。本当に一人失ったと思いきや新しく守るべきものが増えるなんて。ストレスがたまりそうですよ」
マークスさんと南君は少し寂しそうな顔をして、またにっこりと微笑んだ。