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鍵穴の人間  作者: 蒼蕣
瞳に映る未来
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復活の力

俺は彼女の手を握り、四○五号室の化学実験室に入っていった。

「よし、ここにしよう」

「よく見て。この三角フラスコは今日午後一時三十七分ごろ、つまりあと五分後に一年生たちが壊してしまうんだ。だからもし、君にその治癒する能力があるんだったら直せるんじゃない?」

「うん、わかった。試してみる」

明日香は軽く頷いた。

「よし、一年が来るまで外で待ってよう。もしこれに成功したらすべての人の寿命を引き延ばすことができるかもしれない」

そうこう言っている内に、一年生たちがやって来た。

「イエィ~!」

「フゥゥ~!」

「ぎゃははは!」

胡散臭(うさんくさ)い笑い声が耳に入って来る。その時、

「ガシャアン! パリン!」

「うわぁ、やっべえ割っちまった。どうしよう」

「と、とりあえず逃げよう。俺たちは知らないふりをするんだ」

俺は、窓からその一部始終を見ていた。

(かね)子守(こまもる)か。あいつは多分これから先、あういうことを繰り返すんだろう。だから最期は警察署の牢屋で静かに、誰もいない中死ぬんだな。たぶん、大人になってから犯罪に手を染めるようになって、捕まって、無期懲役なんだろうな」

俺はぶつぶつ呟きながら、一年生が去っていくのを見届けた後、こっそり教室に入っていった。

「よし、明日香さん直せるか?」

「うん」

そう言って壊れたフラスコの前で、手を合わせ、何か言い始めた。

「#&‘*+?>|~=#&%、_}*」

俺には何を言っているのかさっぱりわからなかったが、その奇妙な念仏を唱え始めてわずか十秒ほどで、みるみるうちにフラスコの割れた口の部分が宙に浮き、土台の割れ目と合わさり、まるで魔法のように割れ目が消えて行った。

「はい。元通り」

俺は愕然(がくぜん)とした。

「その念仏は、元から言えたの?」

「うん。小学校のころ学校の鶏の卵が割れててね。かわいそうだと思ってたら、知らず知らずのうちにこの言葉を唱えてたの。そしたら卵は元の形に戻って一週間後、ヒナに孵ったのよ。でも私、これはみんなが使えるものだと思ってたから、あんまり気にしていなかった。でも中学の修学旅行の時、私の先生が事故を起こしたの。そのとき、生徒はみんな{大変だ!}とか、{息してない}とか、{早く救急車!}とか叫んでたの。だから、おかしいなと思ったけど、仕方なく私があの呪文で、蘇らせたの。そしたらみんな、びっくりして、{すごいね}とか{どうやったの?}とか聞いてきた。そのとき初めて私しかこの力は持ってないんだって知ったの」

「じゃあ、さぞ人気者だったんじゃない?」

俺の言葉に明日香は悲しい顔を向けた。

「ううん、最初は感謝されっぱなしだったけど、高学年の子や、男子生徒が気味悪がって、{こいつ、魔法使いだ}と馬鹿にしたり、{ねえ、私の骨折した腕も直してよ}って駄々をこねたり、{こいつはあの世からの使いだ}とか、{違う、こいつは魔女なんだよ}って言ってどんどん私から遠ざかっていったの」

「明日香は、死んだ人しか治せないんだ」

「うん。だから、心肺停止の状態じゃないと治してあげられないの。しかも、一人に付き一回しか使えない。それが命っていうものだからね」

「そうか。それじゃあ、何も言い返せないな」

「うん。しかもその生徒たちが校長に言いふらして、校長も気味悪がって私を退学にさせたの。しかも、私の生みの親でさえ、私を信じなくて、私を捨てたの。もう頼る人がいない中でこの学校に来たの。私本当はここでも拒絶されたら自殺しようと思ってたの。でも悟くんがいた」

柊明日香はにっこりと微笑みかけた。

「俺と一緒だ。俺もずっと辛かったんだ。俺はなるべくこの力をみんなに言いふらさないようにしてたから、まだマシみたいだったな…

よし、だったら俺と一緒に全世界の人々を救おう。新しい未来をあげよう。さっきのフラスコを見たら、次死ぬのが見えていた。でもそれはずっと先のことだった。だから、俺たち二人で寿命を長くすれば、今まで俺たちを邪魔者扱いして来た奴らを見直せる。そうすればこんな世間から隔離された生活とはおさらばできる。堂々と生きてられるんだよ。明日香さんもこれからは俺と一緒に、すべての人を助けよう。大丈夫、俺が必ず明日香さんを守るから」

「う、うん!」

泣きそうな明日香を俺は励ました。

こうして、俺たちの新しい人生の幕が上がった。

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