過去の自分
「ってなわけで。明日香ちゃん達は一時休業。ま、その間に俺達は情報収集を続行してもいいし」
「もしくは資金集めとして相手の情報を探りながら仕事するって手もあります」
「そうだな。流石にもうそろそろ貯金も底を尽きそうだし、久しぶりに仕事でもするか」
「でも、あなた達のようなおっさん達を採用してくれる人なんているのかしら?」
「何言ってんだ、俺達は医者だぜ。医者不足の病院なんてそこら中にあるし、最低クリニックとかでもいいんだよ」
「ですが、海サン達はどうするんデスか?」
「僕達はコンビニでアルバイトでもしますから安心してください」
「そうだな、俺の財布も菓子買いすぎてもう残り三千円しかないし、久しぶりに働く…ん?」
財布の中身を確認する手が止まった。
「どうかしましたか、先輩?」
「あ、いやこれ何だっけなと思ってな」
すると、レシートの束が詰め込まれた財布のポケットから一枚の写真を取り出した。
「ああ、これ明日香さんとあのお店に行った時にもらった写真ですよ」
「あのお店? 俺がよく行く店はコンビニか、このセンス抜群の服がある青木屋と俺のイケメンぶりをより一層引き立てるヘアサロン石田だけだぞ」
「先輩の記憶力は認知症患者レベルですね。まだ二年も経っていないのに。あの時は写真見て大喜びしてたのに」
「そうだったか? 確かにこんな懐かしい写真は滅多に見ないからな。ほら、これってお前と初めて会った時の写真だろ」
「そうですね…」
「あ? この感動が伝わんねえのか、お前には」
「その下り、前にも聞きました」
「くだらない、私達はもう行くわ」
林檎と淳平は飽き飽きした顔で病院を出て行った。
「ち、何だよ。ツンツンしやがって。で、この写真どうしたんだっけ?」
「二年ほど前、明日香さんと一緒に過去の館という場所に入ったじゃないですか。ほらあの西洋風の建物ですよ。ほら過去が見えるっていう」
「ああ、あの面白いおっさんがいたところか…」
「どうかしマシタか?」
「いや、何か変じゃねこの写真。なんて言うかこれ一体いつ撮ったんだ?」
「そう言われてみればそうですね。確か彼が我々の心の中にある過去の出来事から、一番幸せな瞬間を写真に収めたって」
「てことはこれはあのおっさんが撮ったって事か。なら何で俺達カメラ目線なんだ? この写真撮られたときは、俺達あのおっさんに会ったことや見たこともないんだぞ。もしかしたらあのおっさんも何かの能力持ってるかもしれねえな。例えば相手の過去を操るとか」
「んー否定はできマセンね」
「こいつも奴らの仲間かもしれねえって事か。だったらやばくねえか。もしこいつが俺達の過去の出来事に潜り込んで変な風に組み替えられでもしたら…」
「同士討ちとかもありえマスね」
南の発言にその場にいた四人が互いを見合った。
「よし、じゃあ決まりだ。みんなでもう一度あの人のところに会ってこよう」
「でも、あそこは京都ですよ」
「いいじゃねえか、ここから新幹線で三時間もかからねえだろ。行って帰ってくるだけなら今日の夜には戻ってこられる。ほら、さっさと支度して行こうぜ」
海の即決に慎吾は頷くことしかできず、仕方なく先に病院を出ていた霧島林檎と丸岡淳平を呼び戻すために、ズボンのポケットに入れていた携帯電話に手をかけた。