戦闘能力
そこには雷雲があたり一面を覆い尽くしていた。
それはまるで神様が我々に怒っているかのようにゴロゴロとうめき声を上げていた。そして何より驚いたのがその無数の流れ星のように頭上から落ちてくる雷の中を歩いて来る者がいた。
私がその人を凝視していると向こうも気づいたのか私と目を合わせたかと思うと、ものすごい勢いでこちらに駆け寄ってきた。そして私のすぐそばの窓ガラスを割って中に入ってきた。
「あ、ダーク! 来てくれたんですね」
ホワイトは丸岡君の拳を左右に躱しながらダークの方をちらちらと見ていた。
「あいつは…雷野郎か!」
「え、でもこの人がここに来たって事は…」
私は最悪な事態を頭の中で思い浮かべた。
「せ、先輩!」
慎吾君がこちらに振り向いた。するとそれまで口を摘むんでいたダークが氷のように冷たく笑った。
「ああ、この風の子ですか。ま、風と雷じゃ相性が悪かったというまでですよ」
ダークは肩に背負っていた何かを下ろした。
「海君!」
海君は全身が血で覆われていて、そのほとんどが乾いて黒く変色していた。今にも出血多量で死んでもおかしくないような状況だった。
「今助けてやる」
真斗が私の膝から起き上がろうとした。
「駄目よ。あなたも傷だらけなんだから動いちゃダメ」
「そんなこと言ってる場合か、あっちの方が重傷だ。一刻を争うかもしれない」
「まあそう焦らないでください、鬼庭真斗さん。彼は大丈夫ですよ。それよりデスさん、ホワイトさん。あなた達幹部二人がいながらもAIはニ体ともやられ、デスさんに関しては傷だらけではありませんか。この状況での長期戦は我々が不利です。なぜ一度撤退して立て直さないのですか?」
「ま、待ってください。あと少しで全員の息の根を止めて見せます」
デスは少し怯えているような表情を見せた。
「そうでしょうか。そこのソファに座っているお嬢さんはかすり傷一つないように見えますけど。しかもやられたロボット達は二人とも刃物、それも日本刀で斬られたような跡があります。ということはそこにいるお嬢さんか、あなたの前にいるその青年のどちらかがこのロボット達を倒したことになります。どちらが二人を倒したか知りませんが、あの頑丈に作られたAI達をこうもあっさりと撃退したと思われる二人の内の一人が無傷というのでは明らかにあなた方が不利な状況だと私には見えるんですが」
ダークは探偵のように長々とデス会話を続けていた。その間にホワイトの顔がどんどん強張っているのが分かった。
「これ以上被害を出さないためにもここは引くべきだと思いますが。あなた方の帰りが遅いので迎えに来てあげたというのに、あなた方はこの様です。この件に関してはワールド様直々に相当な処分をあなた達に下すと思いますよ。覚悟しておいた方がいい。さ、帰りましょう。シャドウもあなた達の戦闘に飽けてしまい、帰ってしまいました。ですから今はこの戦闘は外から丸見えですよ」
「わ、分かりました。ホワイト、君は加藤一を持って行ってくれ。私はこっちを持っていくから」
ダークはフゥとため息をつき、私の方へ歩み寄った。そして私の背丈までしゃがみこむと私の手を取り、札束をその掌に置いた。
「これは損害賠償です。こちらの部屋の復旧にお使いください。デスとホワイトが部屋を滅茶苦茶にしてしまい、申し訳ありませんでした」
ダークは一礼をするとデスとホワイトと共に私のすぐそばの窓から飛び出していった。彼らが見えなくなると、空は瞬く間に明るくなり、疲れがどっと体中からあふれ出て思わずその場に倒れてしまった。
その出来事は夢のようにあっという間に消え去っていった。私が静かに目を閉じようとしたその時、玄関のドアをドンドンと勢いよく叩く音が聞こえた。
私は思わず身震いをした。
「おい、あんた達! 何だいこの部屋の有様は!」
私はホッとした。それは慎吾君達が借りていた、まるで廃墟のような有様となったこの部屋の大家さんの怒鳴り声だった。




