風神、雷神
「じゃあ、まずディアブロ軍を見つけ出せばいいんだな?」
南君の言葉に海君は緊張感の全くない顔を取った。
「そうだ。鶴見さんや小森を見つけ出し、捕まえればいい。これは俺の推測だが、奴らは今世界を脅かすような強大な力を持っている気がする」
「しかしだな、佐藤。奴らの能力がどんなものかは詳しくは知らないし、ましてや組織に何人いるかも知らないんだぞ。たった二人を捕まえただけで終わるとは思えない。しかも小森は確かあの加藤一のようなAIとやらの開発に携わっていただろう。奴がこの前よりも性能を上げて、大量に生産していたら俺たちに勝ち目はないだろ」
「分かっています、鬼庭さん。ですから、我々も速やかに計画を立てて実行に移すほかありません」
「ですが南サン、奴らの情報が少なすぎマス。せめて組織が何人、そして誰なのかを突き止めないと、小森サンや鶴見サンのように、もしかしたらもう既に身近に潜んでいて我々の今の内容もどっかから聞いているかもしれマセンよ」
「なら俺たち、お互いも監視しなきゃいけないのか? 全く、そんなんじゃこっそり明日香ちゃんの所へ遊びにもいけねえじゃねえか」
こっちを見つめてくる海君に対して、私は苦笑いをした。
「それよりあのアホ、どこに行ったの? まだ帰って来てないみたいだけど?」
「ん? 誰の事だ?」
私はあたりを見渡して、あの人がいないことに気が付いた。
「あ、淳平さんがいない」
「そうですよ、鬼庭サン! 丸岡サンがいません」
「奴なら俺たちと一緒に外を探しに行ってたが、途中ではぐれてしまったみたいだな」
「でも、もう帰ってもいいころじゃない?」
「何かあったんでショウか…」
「もしかして、あいつが組織のスパイだったとか?」
海君の言葉に動揺が走った。
「それとも、奴らに捕らえられて殺害されたかのどちらかですね…」
その瞬間、また部屋中に静寂に包まれた。
「と、とにかく。今はディアブロ軍の情報収集に専念しよう。もしかしたら淳平も何かの情報を掴んで、潜入しているのかもしれない」
「こんにちは~!」
突然、玄関から女性の声が聞こえた。
「安藤さん! 安藤さん! 今日こそ牛乳代払っていただきますよ。こっちはもう一か月ちょっと待ってるんですよ。安藤さん! いるのは分かっていますよ。これ以上払わないようであれば、警察に報告するしかありませんからね」
「ガチャ!」
「あ、やっとですか。さ、お金下さいな…ありゃ?」
「こんにちは…」
「ありゃ、部屋間違えたかな? どうもすいませんな」
「あの、安藤雄一さんのお宅はここですが…」
「おや? じゃあ君、彼の息子さんかえ?」
「いえ、実は彼は私の友人で、今日一緒に飲みに行く予定だったんですけど、鍵が開いてて、中に入って確認したら留守みたいで…」
「そりゃあきっと夜逃げじゃないかえ? 彼は借金取りにも追われてるみたいだったからね。全く、私としたことが逃げられたとは」
「あの、あなたは?」
「私、佐久間緑っていうんだよ。牛乳配達をしてるもんだよ。あんたは?」
「あ、佐藤南です」
「そうかい。ま、また会えることを楽しみにしてるよ。じゃ、まだ仕事が残ってるから」
「はい。失礼します」
私は南君がお辞儀をした相手を見て、なぜか意味深な感じがした。
「パリン! ガシャアン!」
「うはぁ!」
「なんだ!」
私は視線を玄関のドアからリビングの奥にある寝室の方へと目を向けた。
「淳平!」
「丸岡さん!」
「くそ、こいつ…」
丸岡さんは私たちを無視し、ゆっくり起き上がると、そのまま割れた窓の外へと飛び出し、ジェットパックのようなものを背中に背負い、宙を舞った。
「淳平さん!」
飛び出していった丸岡さんはところどころやけどを負っていた。窓の外を見ると、黒かった空はいつの間にか白く光っていた。だがその白日の空を遮るかのように黒雲が目の前に現れ、黄金の光を放っていた。また、そのあとを追いかけて行った海君の体は灰色の羽衣を纏っていた。
「どうしました? 丸岡淳平さん。さっきまでの威勢は?」
その声の主は黒雲が生みだした、黄金の光をマントのように羽織っていた。
「どうやら私の勝ちのようですね。この私に勝てるものなどこの世には…」
「いるぜ、ここに。この俺様が!」
「おい、俺の戦いだ。邪魔するな」
「そんなこと言って、もうずいぶんやられてんじゃないか。やっぱ普通の人間じゃ限度があるってもんだぜ、淳平さん。あんたはさっさと敵の情報集めてこい」
海君は淳平さんの薄汚れた顔を覗き込むと、雷男の方へ飛んで行った。
「おい、待て! もしお前があいつを倒すことが出来たら、奴らの情報を聞き出せよ」
「言われなくても、そうするよ」
「ほう、新人さんですかな。では始めましょうか。ちなみにあなたのお名前は?」
「大沢海だ」
すると雷男は、どこからかファイルのようなものを取り出し、ぺらぺらとページをめくった。
「これですね。大沢海、一九九五年生まれ。能力、風を操る。現在、元凶である、柊明日香らと共に行動している、と」
「なんだよ? その元凶って」
「あなたには関係ありませんよ。ちなみに私はディアブロ軍幹部、特攻隊のダークです。よろしくお願いします」
「ほう、幹部か? なら、今まで戦ってきた奴よりは強いんだろうな?」
「さあ、どうでしょう」
「ふん、まあいいや。とにかくあんたを捕まえて、何かしらの情報を吐かせないと仲間に怒られるし、明日香ちゃんに嫌われちゃうんでね。全力で行かせてもらうぜ」
ダークと海君は雷雨で視界が悪い中、互いに目を見開き、不敵な笑みを浮かべた。