儚い夢
「ほら! ほら! ほら! どうした? 淳平さんよ。あんたが得意って言ってた接近戦だぜ」
守と淳平がアジトの隅で、砂埃をあげながら、刀を交えていた。守の方はたまに床に落ちている刀や床のタイル、ガラスの破片なども放していた。
「は、俺はまだまだ余裕だぜ。はらどんどん投げてこいよ!」
そういって、ポケットに仕込んだ拳銃を放った。
それをソファで受け止め、そのまま淳平に向かって投げた。
飛んできたソファを淳平は腰に下げた日本刀で真っ二つに切った。
守は真っ二つに切れたソファの間から刀をものすごいスピードで投げた。
淳平はそれを右にかわし、飛んできた刀の柄を掴み、にやりと笑った。
「投げるものがなくなった今、俺の方が有利になったぞ。形勢逆転だな」
「きゃっ!」
「あ、明日香さん!てめえ俺の大事な明日香さんをびちょびちょにしやがって、あとで戦利品としてもらうはずだった明日香さんも下着が丸見えになっちゃうじゃないか」
「フン、あとで二人、いや三人まとめてあの世で送ってやるから、その時じっくり見なよ」
「明日香、俺たちは足でまといだ。車に入ってよう」
真斗が明日香の腕を取り、車の中に押し込んだ。
「許さねえぞ。は~! 吹き飛べ!」
海は右手から竜巻を発生させた。
「無駄ですよ。僕の前では風など無力」
そういうと大量の水が竜巻に覆いかぶさり、瞬く間に飲み込まれた。
すると健太は風のごとく瞬時に海に近づき、思いっきり腹を殴った。
「ぐはっ!」
海は跪いた。
「痛いですよね。こんな小さい体でも水を手の周りにコーティングするだけで、攻撃力は二倍以上に跳ね上がるんですよ。なぜかわかりますか。あなたを殴ったときに水があなたの体内を通って抜けました。つまり水圧があなたの体内を通り抜けたんですよ。そりゃあいくら脂肪が多くて、直接の打撃が聞かなくても、全てを突き通す水が体内に衝撃を与えてくれるんですよ。ね、水って意外に便利ですよね」
「ごちゃごちゃうるさいな。説明はいいからさっさと構えろ。俺は許さないと言ったはずだぞ」
健太はニヤリと笑みを浮かべた。
「ぐっ。なんだ。何なんだよ、あいつの力」
「体が勝手に動いて、言うことを聞きマセン」
南とマークスは共に深い傷を体のあちらこちらに負っていた。
「私の力、そんなに知りたいですか。まあ、いつか分かることだし、教えてあげましょう」
「フン。別にいいですよ、鶴見先生。言いたくなければ言わなくて」
「でもこのままでは負けてしまいますよ。いいんですか?」
「このぐらいの傷で我々に勝った気でいるんですか? 人間の生命力を甘く見過ぎじゃありませんか」
「そのような状態で言われても、負け惜しみにしか聞こえませんよ。私の力は目に映るすべてのものを意識的コントロールすることです。つまり、私の意識がマークスさんのその巨大な腕に入れば、その腕を止めることもできますし、あなたを殴らせることもできます。しかし、支配するのも限度があって、最高三個の別々の場所を同時に支配することができます」
「そんな力を持っているとは危険デスね。なんとしてもあなただけでも倒さないと、ボクらが目指している未来を作り上げる時に厄介な存在になりそうデスからね」
「そうだな。こっちも全力でいかしてもらう」
そういうと鶴見伸一の周りを摩擦で火が付きそうなほどの速度で回り始めた。
「まったく。今の状況をよく考えてください。私はあなたたちを大きく上回っていて、健太君の所に居る海という青年ももう風前の灯火のように弱り果てていて、林檎君と慎吾青年は十体のAIワッフェ相手に頑張ってはいるが、小森君が作り出したこの前より数段強くなった人間兵器十体に対し、立った二人とは兵力差があり過ぎていつかは力尽くでしょう。まあ、金子君の所は余裕って感じですが、残りの明日香君、鬼庭君、そして丸岡君だけじゃ、残りの我々を倒すことは不可能に近い。ここはおとなしく引いた方が賢明だと思うがね」
「フン。なら俺たちがあんたを倒せば、俺たちの勝利ってことだろ」
「全く、話の分からない人たちで大変だ」
「ああもう、きりがない。こいつらどんだけ硬いのよ。しかも予想よりはるかに上回った破壊力とスピード。もう! 南さんたちから聞いた情報と全然違うじゃない」
霧島林檎は自分の力ではロボットを倒せないことに苛立っていた。
「おそらく、あの病院での事件の後、小森祐樹さんが改造したのでしょう。しかし、この硬さでこのスピードを生むのはなにかトリックがあるはずです。どこかにかならず鋼より柔らかいとこがあるはずです。その所を見つけるまではひたすら攻撃していくしかありません」
「あなた、なかなか頭いいのね。ちょっと感心した」
「ありがとうございます」
林檎は両手の刀で、慎吾は鷹や鷲、トンビなどの鳥でひたすら進化した人間兵器に攻撃を加えた。
人間兵器の方は近距離の敵なら刀とこぶしで、遠距離の敵ならマシンガンや弓矢、ショットガンにライフルなどで応戦した。
ディアブロ軍のアジト内の各場所で様々な戦闘が行われている中、ある一発の銃声が全員の視線を引き留めた。
「バァアアン!」
一瞬全員が静寂に包まれた。
「なんだ?」
「誰だ。どうしたんだ」
「う、だ…だれ…だ!?」
金子守の脇腹から赤く地が滲み出ていた。
「金子君!」
鶴見真一の声も虚しく、金子守は膝から崩れ落ちた。
ふと、南があることに気が付いた。研究室のドアが開いていて、その正面には一体の煙を出した拳銃を持った人間兵器と小森祐樹が立っていた。
「小森君、君が撃ったのか? なぜだね?」
「ワールド様からの命令で、金子守は弱い。弱いものはこのディアブロ軍には必要ないと」
「なんてことを。これじゃあ計画が…」
伸一と健太は目の前の出来事に呆然と立ち尽くした。
「それと、わざわざ一人ずつ殺していかなくても、トップさえ殺せば、正気は無くなる。なぜ、柊明日香を狙わない? だそうです」
そういうと、小野寺実が車から出ていた明日香に銃口を向け、引き金を引いた。
「明日香さん!」
「明日香!」
「危ないデス!」
「避けてください!」
「明日香さん!」
「バッアァアアン!」
その場にいた明日香の仲間たちが一斉に明日香を守るべく戦いをやめ、明日香をかばおうとした。
「ブスッ! シュウゥゥゥ…」
人間の体を貫いた音とその傷口から血の流れる音が聞こえた。
明日香は一瞬自分をかばってくれたものの後ろ姿が自分が初めて恋をした人にどこか似ていると思った。
しかし、その人物は彼とはどこか違い、倒れる時に明日香ににっこりと微笑んではくれなかった。
「どうやら、手間が省けたようですね。一度皆さん私の所に帰還してください。残りの幹部二人も帰ってきたことですし、今度は念入りに計画を立て、また後日決戦をすると致しましょう。とのことです。みなさん、戻りましょう」
小森祐樹の言葉と共に、アジトにいた全員が、もっていた武器を手放した。