一致団結
あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
「さ、次はこの部屋ね」
明日香の隣には鬼庭真斗、そして内科医であるアーサー・マークスがいた。残りのディオス軍と名乗る南と淳平、そして海と慎吾は受付の前で話し合いをしている。
「よし、これで最後デスね。これまで何万人という数の患者さんを救ってきマシタけど、復活というのはまた違う感覚デスね」
マークスがそういうと病室のドアを開けた。
中には四台の血にまみれたベッド、割れた窓ガラス、先に偵察に行っていた海、慎吾、南、そして淳平らが壊したと思わしきAIワッフェ二体。そして肉片。もう、人間だったこともわからないほど切り刻んであった。最初は血の気が失せるほど残酷な光景であったが、何部屋も回っているうちに慣れてきて、今となって明日香は普通に肉片に触って呪文を唱えている。
「#‘$“~=&($?*)」
相変わらず他の人間には意味不明な呪文を独り言のように唱えている。
「よし、脈は正常。一応患者は全員無事だったな。病院もきれいさっぱり片付いたことだし、あとは患者たちが目を覚ますのを待つだけか。患者たちが起きてどんな反応を示すかが心配だな。何が起こったか覚えてない人もいるだろうし、自分は死んだはずなのになぜ生きているのだと疑問に思う人もいるだろうし、病院を襲撃した奴は誰なのだという怯える人もいるはずだ。この後が大変だぞ。今の内に俺たちも休んでおいた方がいい。いつまた奴らが襲撃してくるかも分からないことだし、暇なときにじっくり体を休めていつでも襲撃に耐えられるよう準備しておかないと」
「そうね。その間にあなたたちに聞きたいこともあるし、それとディアブロ軍の情報共有も必要だしね」
明日香は隣にいるマークスを見た。
「ボクから聞くより南サンから聞いた方がわかりやすいと思いマスよ。だから、受付の所に行きまショウ」
受付に着くと、海と慎吾、南と淳平が隣同士で座っていた。病院の医師たちや看護師たちがその周りを囲んでいた。その中には襲撃時に逃げた人から、襲撃を受けて明日香に命を吹き込んでもらった人までいた。
「お、ずいぶん賑やかだな。おい君達、ここはいいから俺たちが復活させた患者の所に行ってくれ。まだ意識はないが、目覚めたらいろいろと状況を教えるのに苦労するだろうが、頑張ってくれ」
真斗はしまったとばかり、自分の口をふさいだ。
「鬼庭医師! やっぱり私たちは死んでしまったのですね。復活とはどういうことでしょう?」
「新しい復活の薬でも開発したんですか?」
「あの者たちは何者ですか?」
「なぜ、あれだけの襲撃を受けて、患者さんたちはみな無事なのですか?」
「私達にも事の状況を把握する必要があると思います」
「教えてくれないと、患者さんたちにどう説明していいかわかりません」
「教えてください!」
「教えてください!鬼庭さん!」
「鬼庭さん!」
医師たちはまるで新聞記者のように事の状況を説明するよう問い詰めてきた。
「あ~もう。お前らも何なんだ。お前らは医者だろ。人の命を預かっている仕事をしているお前らが何で患者のことを第一に考えない! 事の事情はできるだけ患者に悪い印象を与えないように説明する。皆さんが納得して静かになったら真実を一から教えてやる。ほら行ってこい」
「ていうか何で鬼庭さんが我々に指示を出しているんですか。我々の上司は鶴見先生のはずですよね。彼はどこですか?」
「なに、鶴見さんがいない! おい誰か彼を探してきてくれ」
「待って!」
明日香が走り去ろうとしている医者たちを止めた。
「彼は大丈夫だから。ここは真斗に従ってください」
「わ、分かりました。これも後で説明してくれるんでしょう。では我々はお邪魔のようなので、患者の所に行ってきます。あ、それと我々いやこの病院と患者さんたちを守ってくれてありがとうございました」
医師たちが一斉に明日香たちに向かって頭を下げた。
「感謝の言葉も後で聞くから。ほら、早く行けって」
真斗は照れながら、走り去っていく医師たちを見送った。
「さ、では我々も会議を始めましょうか」
慎吾が立っている明日香たちに自分らの周りに座るよう指示し、話し始めた。
「では、まずは佐藤南さん、アーサー・マークスさん、丸岡淳平さん。あなた方は何者ですか?」
すると、真斗とマークスに挟まれている南が語り始めた。
「はっきり言うと、我々はあなた方の味方です。我々はあなた方が夢描いている未来を実現を手助けしようと結成されたのです。ボスの近藤翔さんが束ねてるこのディオス軍は我ら三人とその下に諜報員が数名います。我々は先ほども言いましたように、あなた方お二人、いや悟さんと屋良さんも含めた四人の手助けをすることを目的としています。
我々は影であなた方を支えていこうとしました。しかし、あの時はまだ私とボスの二人だけ、何もできませんでした。やっと他に諜報員が入って、いざ助けようとした時には、悟と屋良さんが死んでいて、残った明日香さんと鬼庭さんも何日か夢をかなえるのを諦め、ただぼ~っとしていました。我々はあなた方をそっとしてあげようと、雲隠れしました。
しかし今では死んだ彼らの分を背負って、人々を救うことを再開している明日香さんたちを見て、今なら我々も力になれると思い、我々も動き始めました。
しばらくして、我々は悟君たちを殺した張本人であるディアブロ軍幹部、箕輪健太と金子守を見つけました。そして、彼らの情報を集めていました」
「ちょっとストップ。話がずれてきている。俺たちが今聞きたいのはディアブロ軍の情報じゃなくて、君達ディオス軍の情報だ。君らはなんか特別な力を持っているのかな」
真斗は話を本題に引き戻した。
「はい。我ら三人の内僕とマークスは持っています。僕は神速、スピードの力。マークスは筋肉増量、パワーの力です」
「なるほど。それで、君たちは何で我々の力になりたいと思ったんだ?」
「それは私が日向悟の生き別れた兄だからです」
明日香と真斗はその事実に驚愕した。
「本当かね。何でもっと早く名乗り出なかったんだ。俺たちはもう何年も一緒に居ただろう」
「それは私が最初に彼と別れようと告げたからです。二十年前、まだ高校生だった私は十歳下の小学生の弟に嫉妬心を抱いていました。私の母親は最初は私を可愛がっていましたが、弟が生まれると、彼ばかりを可愛がるようになりました。我慢できなくなった私は家を出て、アルバイトをしながら将来の夢であった医師になるため必死に医学を勉強しました。
大学二年の夏、母親が死んだと聞いて、独りぼっちの弟が心配になってきました。あ、うち母親はシングルマザーで、昔から女手一つで我々を育ててきました。そんな母親が死んで悲しんでいるであろう弟に会いに久しぶり実家に帰りました。しかし、もうそこには誰も住んでいませんでした。近所の人に話を聞くと、弟は親戚に預けられたと聞き、一安心しました。そして、五年前初めて救急車の中で弟を見ました。自分は何度も自分の事を話そうとしましたが、自分が先にいなくなったのに自分がまた一緒になろうというのは兄からしたら屈辱的な気分になりました。なにも告げられないまま、結局弟は殺された。もし、私が手を貸していればと何度も自分を責めました。そして、罪滅ぼしとして、残っている彼の仲間の手助けをしようと決意して、今日に至っているわけです」
一つの短い質問に長い答えを返してくる南に海とは飽きてしまったとばかりの表情を浮かべた。
「君たちの野望はよくよくわかった。これからは一緒に未来を救っていこう。よろしく」
真斗は手を差し出した。
南は病人の手でも握るような手つきで真斗の手に自分の両手を重ねた。
「よし、次は情報共有だ。まずはやっぱり今の相手の動きだ。彼らはこれから何をしてくると思う?」
海がやっと終わったとばかりな口調で話題を変えた。
「おそらく、彼らはすぐにでも我々も潰しにかかるでしょう。なので我々も急いで対策法を練らないといけません」
淳平が大人びた口調で発言した。
「ディアブロ軍はワールドという人物を筆頭として、最高司令官のデスと名乗っていた鶴見伸一、五大星で分かっているのは箕輪健太と金子守。そして、彼らが開発したとされるAIワッフェ、高性能人工知能人間兵器で成り立っています。彼らの情報について知っているものは」
慎吾が、早口で説明した。
「我々が手に入れた情報だと、この病院の救命士、小森祐樹も軍の一員と考えています。それと新人救命士である加藤一は彼らが作り出したAIの一体だということがわかりました」
「まじか。鶴見先生に加えて小森まで。おまけにあの天才、加藤も奴らの仲間か、なんで俺の周りの奴はどんどん裏切っていくんだ?」
「おそらく、鬼庭さんさえ始末してしまえば、明日香さんも崩れていくだろうと予測したのでしょう」
「ち、なんて奴らだ。この俺をこき使うなんて」
「それと、私たちは最高司令官である鶴見さんに会ってきたの。そこで有力情報を手に入れたわ」
明日香が話がずれそうなところに割って入り、話を戻した。
「彼が言うには、ワールドと幹部たちはみな、私と面識があるそうなの」
「それはいい情報ですね。他には何か?」
「あ、彼は幹部たちの力のことを言っていたわ。一人は時間を止められる、一人は人の過去が見れる。そしてもう一人は脳の異常発達だったかしら」
「それらを踏まえて、明日香さんと鬼庭さんは記憶をたどって思い当たる人がいないか思い出してください。我々は引き続き情報収集です。それと万が一にも彼らが攻めてきたときには命に代えても、明日香さんたちをお守りすることを優先してください。彼らの夢を壊すことだけは絶対にあってはなりません」
南は話を聞いている全員に鼓舞した。
「こういう状況ではやはり敵の人材を偵察することを最優先するべきです。もしデスが言ったように、幹部たちが五人いるのであれば我々が知らないのはあと二人ですね。デスとワールドの力も散策しましょう。箕輪健太は確か、水を操る。金子守はものを自由に動かす。小森祐樹はデスが教えてくれたあの三個の力のうちの一つを持っていて、残りの二人も残りの力それぞれ。デスとワールドの力は知りませんがおそらく危険でしょう。あまり深く、入り込み過ぎないよう十分に注意してください。それともちろんAIと本部にいる諜報員たちもです。もしかしたら、明日香さんと親しみ深い人かもしれません。くれぐれもあまり人を信用しすぎないようにしてください」
明日香は淳平の言ったことが頭にしみついて離れなかった。それは裏切りが怖いからか、悟たちを殺されたのが憎いからか、はたまた今度はもっと自分の周りの人間が犠牲となることを恐れているという恐怖感からなのか。それは当の明日香でさえわからなかった。