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鍵穴の人間  作者: 蒼蕣
脳が誘う幻想
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死してなお語られる真実

「やあ、久しぶりというべきだけれど、こういう時は初めましてというべきかな」

どこかで聞いたような声が耳に入ってきた。

院長室はカーテンが全て締め切っていて、夜のような暗い雰囲気を醸し出していた。その中央の院長室の席に座っていたのは明日香がいつも見かける見知った顔だった。

しかし、顔はいつもより若く見え、目も生き生きとしていた。まだ、五十過ぎと言っても過言ではないだろう。

「あなたは…」

明日香は驚愕の事実を思い知らされた。

「初めまして、柊明日香さん。ディアブロ軍最高司令官、デスこと鶴見伸一(しんいち)と申します」

「なんで…」

「いやあ~騙していたりしてすまない。私が金子守と箕輪健太に指示を出し、君の大切な人たちを殺した張本人だよ」

明日香は何も言い返すことができなかった。目の前の光景が未だに理解ができていなかった。

「我らディアブロ軍は君たちのような力を持っている者たちを世界中から集め、下等種族である平凡な人間を抹殺すべく立ち上げられた」

伸一がひとりでに語り始めた。

「我々は力を持っている者たちの人数を把握していた。しかし、そのほとんどが使い道がわからず、下等種族である平凡な人間に戻りたいと思い、力を心の底に封印した。そのほかにもいじめを受けて自殺をする人もいた。そんな悲しい種族は何で自分の力に誇りを持たないのか、平凡な人間とは違うということがなぜわからないのかが私には不思議でならなかった。そんなことを思いつつも、私もなるべく平凡な人間として生きてきた。だが、それは自分の力に嫌気が差したからではない。神がくれたこの力を神に見捨てられた下等種族に見せびらかし、自分たちが受けた苦しみを、悲しみを死を持って償うためには、まず下等種族との信頼関係を深めて行くことが必要だと考えたからだ。

私は二十年という長い年月をかけて、人間と信頼関係を深めて、表では京都医学大学附属病院の内科医として、裏では自分の力を存分に発揮できずに悩んでいるものを収集した。その中にもちろん君たちもいた。しかし、最初の方は子供過ぎて役に立たないだろうと見過ごしたのだが、それが間違いだった。君たちは自分たちの力を自分たちを孤独という恐怖に導いた人間どものために使うと言い出した」

「そ、それの何がいけないんですか。我々は確かに孤独という恐怖におびえる日々を過ごしました。しかし我々は自分たちを決して普通の人たちを見下してはいなかった。人間はみんな同じ、それがこの世の中の常識。我々さえ我慢すれば普通の人たちもいつか私たちに心を開いてくれる。自分たちの力を使って人々を幸せにできれば、いつか必ず恩が帰って来る。そう信じることの何がいけないんですか」

明日香は自分の思ったことをすべて口にした。

「甘いわ!」

鶴見伸一が突然叫んだ。

「私は君らの三倍もこの世界で生きているんだよ。その長い人生の中で私も何度も平凡な人間に戻ろうと努力したさ。だが、一度広まった事実はそう簡単には取り消せない。人間どもは我らに聞く耳を持たなかった。私は何度も自分の力を責めたさ。だが、結果は何も変わらない。

だから我々が奴らに我々の真の力を思い知らせ、人間を滅ぼすことを決めたのだ。自分たちの方がはるかにこの世の中に生きていく価値がある。頭がいいだけの平凡な人間はこの先の生存競争では決して生きてはいけない。全人類が滅びるよりかは、確実にこの先の未来で生き残れる素晴らしい進化を遂げた我々が奴らを早めに脱落させ、今度は我らで未来へ貢献をしていく。その為の第一歩がこの世界再生だ」

「そんなことをやったらどれだけの人が犠牲になるのか、どれだけの人が悲しむのか、どれだけ次の未来に悪影響を及ぼすかあなたにはわからなかったんですか?」

慎吾が世界再生を喜ぶ鶴見に尋ねた。

「なに、何もかも滅ぼせば、悲しむ者も嘆く者もいないさ。この計画は世界発展のリセットと一緒だ。別に世界の発展が下がるわけではない。今まで培ってきた技術を土台としてまた一から積み上げていくだけの事さ。平凡な人間どもの犠牲はその新たな発展に大きく影響する。彼らが全員いなくなることにより初めて世界が新しい未来のために生まれ変わるのだ」

鶴見伸一は「フウッ」と深呼吸をしてから本題に入った。

「さあ、世間話もここまでだ。君らも選びたまえ。未来への糧となるか、未来への貢献に尽くす労働者となるか。さあ、運命の分かれ道を選びたまえ。君達だけだぞ選択肢があるのは。それも君たちが神から授かった力があるからこそだ」

「決める前に一つ聞いてもいいっすか?」

海が口を開いた。

「なんだね、手短に頼むよ。計画は時間との戦いでもあるからね。ひと時も無駄にできない」

「あの高性能人工知能なんちゃらは何のためにこの世に存在するんすか?」

「ああ、あいつらはただ人間を殺すためだけの道具に過ぎない。まあ、下等種族よりははるかに素直で言うこともちゃんと聞くから何かと便利だよ。なんだ君らももし我々の軍に加入するんであれば、一体ずつ入隊祝いとしてあげるよ」

「でもさっき人間たちに自分たちの力をお見知らせるっていてたよね。でも、実際誰も自分の力を使ってなくない?」

「いや、ちゃんと何人かは自分らだけで殺したと言ってたけど。まあ、全員まとめて殺せる力は持っていないのでね、一人一人殺すのも面倒だから最初の何人かを殺して他はワッフェに頼んでいるんだろう」

「それにしてもあのロボットたちはずいぶんと高性能だよね」

「ああ、原型はある研究所から持ち出したものだが、それに改良を加え、大量に生産したんだ。うちの軍には脳が異常発達した奴がいるから技術力も高いんだよ。まあ君らも我々の軍に加入すれば、自分の力に合った仕事に就かせてあげるよ」

「残念ですが。我々はあなたの軍に加入するわけにはいきません。我々にはまだ果たしていない約束があります。世界再生でも世界のリセットでもなく未来へとつなぐ幸せです。あなたたちとは全く逆の世界を夢見てここまで来たんです。そう簡単にあきらめるわけにはいきません。とくにこの明日香さんには必ず生きてもらわないと困るんです。悟さんと屋良さんのようにそう簡単には殺させません。我々が命に代えても守り抜くと心に決めています」

慎吾の強く握った拳は震えていながらも、その目は怯えていなかった。

「そうですか。あなたたちの言う世界も見てみたいことですし、計画実行にもまだ準備がかかることですので、まあ今日は特別に逃がしてやってもいいでしょう。ただし、AIワッフェや幹部たちにはこの報告は致しません。彼らがいつあなた方を襲ってきてもおかしくない状況に陥ることになります。これからは我々と戦う恐怖を夢見て生きて行ってください。あなたたちの目標である未来へつなぐ幸せが成功することを願っていますよ」

三人はそれぞれ顔を見合わせ、逃げるように院長室を去ろうとしたその時、

「あ、少しヒントをあげましょう。私はさっきも言いましたようにディアブロ軍の最高司令官です。しかし私はあくまで支部の最高司令官であってまだこの軍には本部というものがあり、そこにも様々な力を持った人がたくさんいます。そしてこの軍のトップ、究極本部長という座についている人がいます。名前はワールドです。頭の隅にでも置いていおいてください。ちなみに私の幹部たちはみな明日香さん、あなたに会ったことがあると思います。よく記憶をたどって幹部たちを見つけだし、捕えれば少しの間は安全に暮らすことができることでしょう。幹部は全部で五人、彼らの事を五大星と私は呼んでいます。箕輪健太は液体を操る力、金子守はものを自由に動かす力、そのほかの三人は見たものすべてを一時停止する力、見たものすべての過去が見れる力、そして脳の異常発達です。あ、私のは最後の最後まで内緒にしておきましょう。では皆さんご検討をお祈りしております」

鶴見伸一は一体のAIを呼び、彼と共に院長室の窓から飛び出し、消えた。

明日香はこの後起こりうる裏切りという恐怖心に心を奪われていた。

また自分の信頼していた人物が自分を裏切るんじゃないかと。

もう誰も信じられない。誰も(つまづ)きそうな自分に手を差し伸べてくれないじゃないかと。

また孤独の人生を歩むんじゃないかと。

明日香は横にいた二人を交互に見た。

そんな静かな空間を切り裂くようにどこからか窓ガラスが勢い良く割れる音がした。

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