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鍵穴の人間  作者: 蒼蕣
瞳に映る未来
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防げない未来

しかし、三日後彼はあの世へ旅立ってしまった。どうやら、僕の言いつけを守らず車に乗り、交通事故に遭ったらしい。たとえ車に乗るなと言っても、未来はもう決まっていて、変えることはできないということを僕は知った。


彼の通夜の席には、大勢の人がいた。雄一郎君のお父さん、お爺さん、お婆さん。そのほかの親戚の人。雄一郎君のクラスメイトと、その親御さん、学校の先生たちも。お母さんの仕事の同僚、上司。ざっと見ても五十人は超えていた。

僕は相変わらず、その人達の最期が脳に伝わってくる。

ああ、あの人の寿命はあと少ししか残っていない。

あ、あの人はお年寄りだというのに真夜中にブランコに乗って、降りる時にジャンプしちゃって結局着地に失敗して足の骨を折り、誰にも気づかれないままそのまま死んじゃう。

あのお爺さんも、むやみに犬に触ろうとして、逆に噛まれちゃってショック死しちゃう。心臓が悪いのに何でこんなことするんだろう?

僕は通夜の席だというのに、人々の最期を見て少し楽しんでしまっていた。

その中に、もう二週間も待たないで、あの世へ行ってしまう人がいた。雄一郎君のお父さんだ。

名前は桜庭翔(しょう)。銀座のバーでバーテンダーとして働いている。彼は、彼の家族が死んだことがショックでご飯も喉に通らず、やせ細り、泣いてばかりいる。ストレスで髪の毛は白髪となり、一睡もできなくて八日後疲れ切って死んでしまう。

ああ、かわいそうだ。雄一郎君と、お母さんが託した命をたった八日で終わらせてしまうなんて。僕はこのことを話そうと思ったが、雄一郎のようにパニックになってほしくないと思い、黙っていた。

人間って脆いな……。誰かがその人の寿命を言えば、大体その前に死んでしまうなんて。自分はもっと生きられるって信じなきゃ。人間という生き物はなんて皮肉で弱いんだろう。

そんな残酷な思いがこみ上げてきたのは、この時からだ。


あの通夜の席から二週間後、また同じ場所で通夜が行われた。

僕の予想通り、雄一郎君のお父さん、桜庭翔が誰にも気づかれずに静かに息を引き取ったという報告が入ったからだった。


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