大量生産
「ん、戻ったか、健太、守。そいつが加藤一か」
デスは相変わらずカーテンの閉め切った暗い部屋の真ん中に腰を下ろしていた。
「はい。言われた通り、新人医師として潜入に成功しました」
「…」
守は緊張と恐怖で体ががちがちに凍り付いていて、言葉を発することができなかった。
「うむ。よくやってくれた。しかし、あいつによると君たちの他にも新人医師がいるようではないか。そいつらはホントにただの医者か? それとも、我が組織を追いかけているスパイか何かか?」
健太は守をデスの見えないように叩き、自分で話すよう合図をした。
「あ、い、いえ。そのようなことはないものかと思います」
「そうか、それならいいのだが。それより君に取り付けておいた発信機、健太のはちゃんと反応してるけど、守のは全く受信できない。どういうことかな? 守君どこで何をしていたのかな?」
デスは静かにほほ笑んだ。
「あ、実は途中で寄り道をして、建物の屋上へ行ったんです。その時丁度強風が吹いて、たぶんその時に落ちてしまったんだと思います」
「あ~そう。ま、いいや」
守はホッとため息をついた。
「それで、健太の方はちゃんと、科学所から、見つけてきたんでしょうね?」
「はい。こちらです」
そういうと健太は一つのシートらしきものをテーブルの上に置いた。
「よくやった。これでAIの大量生産ができる。君達、今日はよくやってくれた。引き続き潜入や情報集めを頼む。後で、他の奴らにも連絡を入れておく」
「はい。では、失礼します」
そういって、守と健太は去っていった。
「さてと、パーティ、再開と行こうじゃないか。この時代のテクノロジーを試させてもらうぞ。
人間の脳を入れ、自分で進化を遂げる人工知能か、はたまた未だに完成を遂げていない人間の脳、そしてその脳を活性化する人間の潜在能力が勝つのか。
勝者だけが次のステージの扉へ行ける。生贄は勿論、その潜在能力を使いこなせていない、下等種族、そして、我らの邪魔をするあの二人だ。このバトルによって世界の所有者が決まる。ハアッハハハハ!」
何秒か笑った後、口を閉じ呟いた。
「さ~てと。戦の前夜祭の準備をしなくては」
そういって、テーブルの上に置いてあった黄色いバラを手に持ち、ポケットの中から取り出したライターでじっくりと炙った。そして、部屋の脇に飾ってあった、アジサイに残った灰を軽やかに落とし、こう呟いた。
「花言葉は自分の伝えたいことを直接何も隠し通さずに伝える幸せなもの。そう、人間という生物の真逆だ。でも使い方を誤ると、醜くて、残酷なものへと変化する。それは人間の臨んだ一つの潜在能力。
でも、それを乗り越えるからこそ、最高の輝きが生まれる。あきらめたものは死に、最期まで願ったものだけが叶えられる幸せ。それはだれにも止められない。それは人間を死の恐怖へと誘う呪いともいうべき悪魔の言葉」