能力を持つ者たちの願い
「う、ううん」
「お、気が付いた。ほらな。やっぱり俺がそばにいた方がこの子もリラックスできるんだよ」
「それは、良かったですね」
「やあ初めまして、明日香ちゃん。僕を覚えてますか? あなたを救いだした大沢海です」
「は、はあ。初めまして、柊明日香です」
「おい、見ろ! この子俺の挨拶を正確に応えてくれるぞ。やっぱり、俺に好意があるんだよ。ね~、明日香ちゃん」
「は、はあ」
「困ってるじゃないですか?」
慎吾はお茶をカップに注いで、ダイニングテーブルに置いた。
「ま、先輩のぐーたらな話を聞く前に、これで気分を落ち着かせてください」
「あ、ありがとうございます!」
よほど喉が渇いていたのか、明日香はお礼を言い終わると、すぐさまカップに手を伸ばした。
「は、やっぱりみんな照れくさくて、最初はイケメンの僕より、無難な慎吾に好意を示してんだな。そんな照れ隠ししなくてもいいだよ、明日香ちゃん」
明日香はいかにも答えづらいという表情を顔に出して、曖昧な相槌を打った。
「自己中心すぎますよ、先輩。完全に困ってるじゃないですか。あ、先輩の妄想はむちゃくちゃ激しいので、適当に流しちゃって大丈夫です。そんな事より、明日香さんにもっと大切な話があるんじゃないんですか?」
「ああ、そうだった。いやあ、明日香ちゃんがすっかり俺に惚れてるんで、俺もつい…」
「あの、話って?」
明日香はついに飽きれて自分から話題を変えた。
「あ、まず一から説明する。真剣に聞いてくれ」
そういうと、お茶を一杯口に含み、のどを潤してから、精密に語り始めた。
「まず、僕達の基本情報を簡単に説明すると、まず、僕達はさっきも言ったように大学でミステリー研究会っていうのを二人で立ち上げてるんだ。理由は、僕達みたいな他の人にはありえない能力を持ってる人を探して、どのようにして自分の生活に役立てているのかを知りたかったっていうのがきっかけなんだ。ちなみに僕は風を生み出したり自由に操ったりできる。慎吾はどんな種類の鳥にでも会話することができ、自分を乗せてどっかいくとか、こういう能力を持った人が他に居ないかとかの情報収集とかをやってもらってる」
「僕は一応自分の能力を情報収集のために活用してるんですけど、先輩の風の能力は意外と使い道がなくて、先輩はほとんど、女子学生のパンチラなどに使ったりしていて、ついにこんな妄想スケベにまで成長してしまったんです」
「こら、なんてことを言うんだ先輩に対して!」
そうつこっみを入れると、一回咳払いをして、話をつづけた。
「ま、そんなわけで、このミステリー研究会を立ち上げて、何か月か経った頃、ついに、死人をよみがえらせる力を持っている人がこの世にいるっていう噂が流れたんだ。それで、情報をかき集めて、その人を見たっていう目撃証言が多数あってそれがほとんど、京都大学附属病院の近くだってことが分かったんだ。そこで、病院に来る附属病院の救急車を見張ることにしたんだ。そしたら、何と偶然、あのキュートな明日香ちゃんがほぼ毎回乗ってることに気が付いたんだ。そしたら、今度は慎吾が、{先輩、この女の子をつけてみましょう}って言ってきたんです。いくら可愛いからってストーカー行為はダメだって何度も慎吾に忠告したんですけど、聞き入れてくれなくて」
「勝手に話を作り変えないでください。僕の話に真っ先に賛成したじゃないですか、鼻の延ばしながら」
「え、そ、そうだったかな~。ま、まあとにかくその時から僕達は君に目を付けたんだ。毎日交代交代で朝晩問わず見張っていて…ああ、あの時は疲れたな」
「僕にはそういう風に見えませんでしたけど。だって、僕は朝と昼で、先輩は夜だけだったので、僕の方がよっぽど疲れてたと思いますけど」
「お前、わかってないな。夜は真っ暗なんだぞ。目を大きく開けないと明日香ちゃんの様子が見えないんだぞ。夜の方がよっぽど疲れるにきまってるじゃないですか」
「しかし、その夜の間僕は、徹夜して彼女のことを調べ上げましたけど。それにあなたは見張りというより、本物のストーカで彼女の寝ているところとかお風呂を入っているところとかを目を大きく開いて、鼻の下を大きく延ばして、見ていたんじゃないんですか?」
「な、何を言うんだ君は。そういう君だってずっと彼女のことを調べまわしていたじゃないか。君の方がストーカーだよ」
「あれは、先輩に頼まれたことですけど。じゃああのまま僕が何も調べなかったらあなたは彼女の氏名、年齢、職業何もわからなかったはずですけど。何も知らなくて、ああやって夜中ずっと目を凝らして明日香さんを見ていたら、それこそ本当のストーカーですよ」
「そ、そりゃあまあ。でも…」
「あ、あの。そ、それで。」
明日香は飽きれてまた自ら話題を切り替えた。
「あ、ごめんね。ええ~と…あ、それで、ついに君が人を救う一部始終を見て、やっと僕達の仲間がいたと思った。それと君と行動を共にしていた日向悟君と近藤屋良君、それと君の今の亭主、鬼庭真斗さんの事も調べさせてもらった。君と屋良君と悟君はそれぞれ能力を持っていて、君が治癒の力、悟君が相手の死ぬ間際が見える、屋良君は透明になれる。ま、そういうわけで僕達は君たちの行動を監視し続けた。見ていくうちに僕達は君たちの能力の使い方にすごく感動した。そして、君たちの夢を聞いた時、僕達は決心したんだ。君たちの力になろうって。
ね、だから僕達を仲間に入れて。必ず君の夢を叶えてあげるから。あいつみたいな敵の襲来は俺に任せて、死んでしまいそうな奴は慎吾の能力で、鳥たちに見つけてもらって、真斗さんの所で死んでしまった人を助ければいいじゃない。僕達は君たちが必ず叶えようと誓った夢、全人類のまだ若い死という悲しみから彼らを救い、新たな人生、未来を捧げるという夢を僕達にもかなえさせてください。お願いします」
海と慎吾は同時に頭を下げた。
「わかったわ。あなたたちの能力は、私たちの能力にきっと役立つと信じてる。でも一つだけ約束をして、私と真斗を裏切らないって」
「はい! 誓います!」
「ありがとう。私は柊明日香二十八歳。宜しくね」
「え、明日香ちゃんって、俺らより、年上! チョー若く見えるわ。いやあ、これは失敬。明日香さん宜しくお願いします。改めまして自分、大沢海。丁度二十歳です」
「同じく二十歳の萩野健吾です。これから宜しくお願いします」
すると、明日香はニコッと笑ったが、そのあとすぐに暗くなった。
「それと、あなたたちも話したくないだろうけど、一つ聞きたいことがあるの。金子守について」
その瞬間、温かかった部屋が一瞬で凍り付いたように悲しい静寂を放った。