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鍵穴の人間  作者: 蒼蕣
脳が誘う幻想
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新たな人種

大きな山奥にそびえたつ一棟の建物、科学物質の匂いが微かに漂っている一室、一体の人型ロボットを何人かの男たちが囲んでいた。様々な機械がコーティングされ脳みその形をしていた。その機械をロボットの脳内に埋め込んだ。

「よし、やっと完成だ。これでこの世界は私の支配下となる」

研究所の総司令官らしき人物の一言に対し、

「やりましたね。このロボットが大量生産できれば、世界はもう部長の手の中ですね」

しかし、実際は部長のことを心の底では憎んでいたり嫌っていたりする。なぜならこの研究は、未来に多大なる影響を及ぼし、これが世に出回れば生命の危機ともいわんばかりの大惨事になるやもしれないからだ。そんな研究をこのずるがしこい部長に譲ってなるものかと、子分たちが親に牙をむき始めていたころだった。

「そうだ。このロボットが世界を支配し、新しい世の中を築いてくれるはずだ。もう人間という限られた脳を持つ生物は必要ない。のちに殺しの技術のデータを詰めたロボットを開発し、人間殺しをやってもらおう。たとえ何十億人が異議を唱えようとも、そのころになってはそいつらに味方してくれる奴などこの世に存在しない。すべてこいつらが支配してくれる! 警察やら自衛隊やらパイロットやら首相やら、何から何までこいつらに任せて私たち開発者だけが正真正銘の生きた人間としてこの世に君臨するものとなるのだ。

もう時代は近未来化に進んでいるが、人間の知恵だけではやれることに限りがある。しかし、こいつらは最小限の事を我ら人間から学び、他のことは自分で経験して学ばせ、新たな考え方を生み出すことができる。まさに将来の世界への第一歩だ。もう、地球温暖化だろうが、森林伐採だろうが、絶滅危惧種の保護だろうが関係ない。すべての自然、歴史、文化をすべて壊し、全世界を平等に生きさせる。そうすれば今の世の中よりはるかに平和となるだろう。どうせ、そうなったときは生きた生物は私しかいないんだ、自然がなかろうが人がいなろうが、空気がなかろうが、全てこいつらが作ってくれる。そしてのちの千年もしないうちに銀河を支配するまでになっているだろう」

部長は興奮のあまり、話が止まらない。

「いや~。夢が広がりますな」

「おっと、そういえば未来の地球の救世主に名前を付けるのを忘れていた。そうだな、人工知能の進化版、人工知能兵器、AIワッフェと名づけよう」

「AIワッフェですか。一体どういう意味ですか? AIは人工知能。ワッフェとは?」

「ドイツ語でワッフェは兵器という意味だ。第二次世界大戦時にドイツが開発した兵器もワッフェというように、あのときヒットラーがやったユダヤ人大量虐殺のように、全人類を殺してもらうからな。あの時も、ユダヤ人は他の市民から見捨てられ、誰も助けることなく死んでいったように、誰も助けが来ずに死んでいく人間どもを考えた名前だ」

部下の一人がフッと笑った。

「では、部長。私が思うにこのワッフェ完成祝いに、一人に死んでもらうのはいかがでしょうか? 誰かがこの兵器で殺されれば、世界は怖気づくことでしょう。今が我らの力を世に伝える絶好のチャンスだと思いますが」

「ほう、それはいい。では早速誰か捕まえてこい。身内のいないやつか、大犯罪を犯してもうすぐ死刑になるやつだとか」

部長はもう、世界を支配したかのように、満面の笑みを浮かべた。

「あれ、確か部長は独身で、身寄りもいなく、あまり著名人ではない。また、ここは山奥で電話は通じません。当分の間は誰にも知られないでしょう。そして・・・・・・」

その瞬間、部下全員が胸元の内ポケットから拳銃を取り出した。

「今あなたは全人類を殺すという史上最大の大犯罪を起こすのです。丁度あなたが言った人物像にぴったり当てはまっていますよ」

「貴様ら何をする気だ! 私を殺す気か。いいだろう撃ってみろ! しかし、この一人の犠牲がどちらにせよ全人類に影響を及ぼすだろう」

「どういう意味か分かりませんけど、私たちはあなたにうんざりなんです。もうあなたは地球を支配するという野望を、このロボットを開発したことにより、達成されました。もう悔いはないでしょう。ではさようなら、もうこの世にあなたの居場所はない。今度は天国でも支配して、自由に暮らしてください。ではロボット完成の冥途の土産です、受け取ってください」

部下の一人の銃口が部長の胸を捉えた。

「では、世界統一達成を祝って、乾杯!」

「パアァン!パン!パァン!」

一斉に引き金が引かれて、弾丸がとてつもないスピードで部長の体の中に食い込んでいった。その代わりに赤黒い液体が周囲に飛び散り、瞬く間に来ていた白衣を赤く染め上げていた。

「グアアアァ!貴・・・・・・様らよく覚えておけ、この仕返しは必ずやって来る。主君を殺した罪により、必ず天罰が下る。私が開発したワッフェがこの世界もろとも、貴様らを地獄の底へと葬ってくれるわ。今頃後悔しても遅いぞ。たとえ私の体が滅びようとも、私の脳は・・・・・・魂はワッフェが受け継いでいるのだ。もう貴様らに生きるすべはない。ハァ・・・・・・ハハハハハァ!」

この一言で、部下たちは主君を撃ったことにひどく後悔した。

しかし、彼らはまだ知らなかった。これがまだ憤怒(ふんぬ)、友情と勇気が起こした大量の犠牲のプロローグにも満たないことに。

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