死、合わせ
「では、よろしくお願いします」
鬼庭さんが、鶴見医師に屋良の亡骸を預けた後、俺に聞いてきた。
「悟君、屋良君が最後に言っていた二年間って何のこと? 君が彼会ったのは半年前だろ。それともそれ以前から知っていたのか?」
「いえ、俺たちが屋良に出会ったのは半年前です。実は屋良が一回死んだあの日、もう既に屋良がこの日に死ぬことが分かっていました。でも俺は彼に二年後に死ぬと伝えたんです」
「なぜ、そういうことを言ったのかね? ちゃんと今日死んでしまうことが分かってたというのに。死ぬ日を知らせたくなかったからか? だが、嘘は良くないと思うぞ。二年後に死ぬと言われて、たった半年で死んでしまったんじゃ、さすがの屋良君も怒るはずだぞ」
「確かに普通の人ならそうでしょうが、屋良は毎日病院に居たから、何年たったかはあまりわからないはずです。だから少しの寿命を心の中で延ばさせ、幸せでいてほしかったんです」
「しかしそれだけの理由で……」
「確かに、ただ半年から二年に寿命を精神的に延ばしただけなら、ただこの最後の半年間がえらく早く感じたとしかなりません。だから屋良も最期の時、{時間が経つのって早い}と言ったんです」
「幸せにすると言ったって、死ぬ直前の人間に何をしたっていうんだ?」
「俺は彼に最後の二年間、好きなことをやれと言ったんです。だから、屋良は自分がやり残したこと、死ぬまでに一度でもいいから行ってみたいところ、やってみたいことばかりを考えていたはずです。それで屋良は半年前から、水族館やら、遊園地やら、旅行やらといろんなところに行って、俺たちの最期の思い出を作っていたんです。
屋良は昔から独りぼっちだったんです。だから俺たちと遊ぶことが彼の最大の幸せだと俺は考えたんです。だから俺は彼に心の中で二年間の猶予を与えたんです。二年あれば精神的に死ぬ緊張も解け、色々とやりたいことに専念でき、死ぬ覚悟、感謝の気持ちなどもゆっくり考えられると思ったんです。それぐらいしか俺に出来ることはありませんから」
「じゃあ、君が屋良に言っていた君の望みというのは……」
「はい、幸せに最期を過ごさせてあげることです。僕はこれまで、たくさんの人の寿命を見てきました。そして、いつも死ぬときの顔は引きつっていて、苦しそうで、死の恐怖に怯えていました。それは僕にとっても辛かったんです。だから最期を幸せにする方法をたくさん考えてきました。でもやっぱり未来は変えられませんでした。そして、あの日も屋良の心の中の顔はすごく怖がっていました。俺は屋良に最後の望みを託したんです。でも今日屋良を見て僕の願いがかなったと思いました」
鬼庭さんはそこまで予測していたのかというような顔をしていた。
「鬼庭さん、屋良の最期の顔を見ましたか? 彼は怖がっていましたか? それとも幸せそうでしたか?」
「ああ、すごく幸せそうだったよ」