異世界に迷い込んだ女子高生8
秋の夕方の少し冷たい風が吹き抜ける。
……どうしよう、どうすればいいの?
こんな妙な状況でも、幸いにも携帯は繋がっている。
「きさらぎ駅 帰り方」で調べてみた。
すると、意外にも該当するページは多かった。
その一つを開いてみる。
【きさらぎ駅から帰る方法6選】
そのサイトには、かなり具体的に色々と書いてあった。
1.物を燃やして煙を立てること。
2.携帯の充電を切らしてはいけない。
3.トンネルを歩いてはいけない。
4.山を登ってはいけない。
5.飲み食いをしてはいけない。
6.自分の名前を忘れてはいけない。
鞄からノートとペンを出して、震える手でそれをメモした。
帰りたい、帰りたい。
「6.自分の名前を忘れてはいけない。」と書いた横に自分の名前を書いた。
「木梨 沙羅」
大丈夫、自分の名前は覚えている。
落ち着いて、冷静に行動すれば、きっと助かる。
そう信じるしかなかった。
携帯の充電は55%とあまり多くはないから、エコモードにしてすぐに閉じる。
モバイルバッテリーも充電器も持っていない。
だから、いざという時のために温存しておく必要がある。
小さなことでも、脱出に繋がることはやっておきたい。
あのページを見て、少し勇気が湧いた。
帰り方があるのなら、帰れるはずだ。
それに、きさらぎ駅の都市伝説では、失踪者より帰還者のほうがむしろ多い。
私は絶対に帰る。
ひとまずノートを鞄に戻して再び歩き出すと、直ぐに改札が目に入った。
出口は一つだけの平屋の小さな改札だ。
電子タッチの自動改札なんてものではなく、年季の入った木枠で組んである箱形の改札が一基設置されていた。
窓口の中を覗いて見たけれど、残念ながら人はいない。
しかし、窓口の中は電気がついていて、さっきまで人がいたような雰囲気だった。
他に何か情報は……
付近を見渡しても、電光掲示板も無ければ時刻表もない。
そこに漂うのは、薄気味悪い空気だけ。