異世界に迷い込んだ女子高生6
涙を拭いながら、お母さんとの会話が噛み合わなかったことを考える。
何が起きているの?
時間軸がおかしい。
今は夕方で間違いない。
なのに、どうしてお母さんは朝って言ってたの?
車内がまた暗くなり、蝶たちの色が毒々しいほどに鮮やかになっていく。
恐怖感と絶望感に塗りこめられて、酷い頭痛と吐き気に襲われた。
全身を伝う汗とざわざわする鳥肌、そして震える手足。
両手の指を組んで、ぎゅっと目を瞑った。
私の今いる世界は、一体何なの?
お願いだから、夢なら覚めて欲しい。
長くも短くも感じる祈り。
そんな中、ザザッと不気味なノイズが走り、不意に車内アナウンスが流れた。
「まもなく、かたす駅、かたす駅でございます。
お降りのお客様はお忘れ物にご注意ください」
ビリビリと割れるような声に驚き、心臓がすくみ上った。
男性の低い声のアナウンスは、ノイズが混じり酷い音割れをしていた。
……出られる?
やっと、駅に止まるの?
かたす駅なんて聞いたことがないけれど、こんな変な電車に取り残されるよりずっとマシだ。
電車に閉じ込められたような錯覚を起こしていたから、駅に停車するのはありがたい。
駅に着いたら反対側のホームに行って、戻ればいい。
分からなかったら、駅員さんに聞けばいい。
すると、電車がゆっくり減速していく。
電車は長かったトンネルを抜け、車窓からは日が落ちる直前の夕方の空が広がっていた。
ずいぶん田舎の駅らしく、すぐ近くに生い茂る森と大きな山が見える。
でも、景色が見えるだけで随分安心する。
よかった、早く降りよう。
薄暗い照明に照らされるホームが見えた。
私は荷物をまとめて、ドアの前に立つ。
「ザザッ……お待たせ致しました、かたす駅、かたす駅でございます」
プシューとドアが開き、私はホームに降りた。
少し肌寒い風がプラットホームを吹き抜けていく。
ドアが閉まる寸前、少しだけアナウンスが聞こえた。
「お忘れ物にご注意ください……」