表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
65/68

夜叉(ヤシャ)3



「沙羅ちゃん……沙羅ちゃん……」



その甘やかに響く美声で、微かに鼓膜が揺れる。



この声は…………



鏡面には、透明なさざなみが沸き起こり、絵の具を垂らしたかのような鮮やかな赤色と白色が混ざり合って、ぼんやりと浮き上がった。



その色は徐々に鮮明な像を結び、艶のある美しい白髪と、血のように赤い瞳を映し出す。



牛頭ゴズとよく似た面差しの、品のある美麗な女性。



馬頭メズさん……」



そのゾッとするほどの美しさに、何度見ても見蕩れてしまう。



鏡面に映る馬頭メズは、私を見てにっこりと微笑んだ。



「うふふ、聞いてちょうだい。

いい作戦が…………」



その瞬間、私の背後から何かが伸びた。



「っ!」



「えっ!?」



馬頭メズの表情が苦痛に歪む。



鏡面の馬頭メズはその右手首をギリリと強く掴まれていた。



その手首を掴んでいるのは……



「やぁ……久しぶりだね、馬頭メズ



背後から降ってきた低い声に、心臓が飛び出そうになる。



視界の左側から伸びる包帯だらけの腕を辿ると、やはり背後には牛頭ゴズが立っていた。



「ひっ!いつの間に……」



牛頭ゴズは私の背後から手を伸ばし、鏡面に左手を突っ込んで馬頭メズの手首を掴み上げている。



鏡の中に……手が入ってる…………



その状況が全く理解出来ずに、私は牛頭ゴズ馬頭メズを交互に見るしか出来なかった。



ただ、今とても緊迫した状況であることは、なんとなく解る。



夜叉ヤシャに伝言をしておいたんだけど、伝わってないのかな?

僕は、厳重注意をしたつもりだったんだけど。

沙羅に近づくなって……さ」



牛頭ゴズの表情はいつも通りなのに、その口調や言動はかなり重い。



だからこそ、いつもよりもずっと怖い。



牛頭ゴズの思い通りにはさせないわ。

沙羅ちゃんは、不自然な手続きで無理矢理連れて来られた。

返してあげるのが、道理じゃなくって?

それに私には、牛頭ゴズの言うことを聞く義務なんて無いわ」



牛頭ゴズのただならぬ雰囲気に屈せず、馬頭メズは余裕の表情を浮かべながら毅然とした態度で接している。



表情こそ柔らかいものの、猛々しく並び立つ虎と龍のように、その眼光はお互いに強く鋭い。



馬頭メズ…………最後通告だ。

沙羅に手出しをしないで。

……僕だって、()()()夜叉ヤシャのようにはしたくはない」



「っ!」



すると、弾かれたように馬頭メズの表情が変わった。



取り澄ましていた馬頭メズが初めて見せた、強い動揺。



大きくまん丸に見開かれていく赤い瞳に浮かんでいるのは、激しい怒りと憎悪の色。



唇を噛み締めて、怒りが燃え滾るような赤い瞳で、牛頭ゴズを睨みつけていた。



「貴方が、殺した。

私の可愛い夜叉ヤシャを………………」



夜叉ヤシャを殺した……?



牛頭ゴズが…………?



でも、昨日普通にいたはず………………



いや、さっき『一人目の夜叉ヤシャ』って……………………



どういうことなの?



「絶対に許さない………………

絶対に…………」



呪詛のように、それは重々しく響いた。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ