異世界に迷い込んだ女子高生5
――ガチャ
再び重いドアを全身で引き、元の車両に帰ってきた。
「え…………」
色のある景色、誰もいない車両内、臙脂色の座席に置いたままの黒い鞄。
それは変わらない。
しかし、圧倒的におかしい。
何かが、飛んでいる。
色鮮やかな、蝶々……?
空中に光彩を放ちながら、赤やオレンジの光る蝶々がたくさん飛んでいる。
嫌だ……ここは普通じゃない。
夢か幻か異空間か……
トンネルを進む電車はさらに加速したように思えた。
こんな悪夢のような電車から、なんとか出たい。
そうだ、携帯……!
光る蝶を避けながら歩き、学生鞄の中を探った。
「あった!」
充電は60%、電波は弱いけど圏外ではなさそうだ。
逸る気持ちを抑えて、電話帳からお母さんの番号を見つけ、通話ボタンを押す。
コールしている!
繋がる可能性はある!
コール音を聞きながら、祈るように待っていた。
「……もしもし?」
出た!
その声にほっとして、泣きそうになる。
「お、お母さん!!
聞いて、学校の帰りに電車が変なところに行っちゃって、それから電車が止まらないの!」
「え、あんた、何言ってるの?」
「意味わかんないかもしれないけど、本当に電車が止まらなくて、出られないの!
とにかく警察呼んで!助けて!」
「ちょっと待ちなさい。
あんた今朝ごはん食べ終わって家を出たばっかりじゃない。
これから会社だから、イタズラはやめてちょうだい」
「え……?」
意味がわからなかった。
「急いでるから、切るわよ」
「ちょっと、待って!!」
電話は切れた。
やだ、なんで!
どうして!
すぐにお母さんに何度も電話したけれど、コール途中で切られてしまった。
なんで……
視界が歪み、涙がいくつも伝う。
頭上には光る蝶たちがが光彩を振りまきながら、ひらひらと飛んでいた。