馬頭(メズ)10
お風呂に入ったり、夕飯の支度を手伝っていたりしているうちに、あっという間に日は落ちていた。
「沙羅は器用だから、助かったよ」
幸い、料理は少しできる方なので、牛頭の指示を受けながら、こなすことが出来た。
知らなかったからとはいえ、あれだけの怪我を負わせたのだから、これくらいしないと申し訳ない。
夕飯も日本食。
なんやかんやでまた牛頭と一緒にご飯食べているのが少し不思議だ。
今日のことを思い返すと、ちょっと不思議に思うことがある。
「牛頭は、なんで私があの湖にいるってわかったの?」
「……ああ、それはね。
沙羅が馬頭に唆されて馬頭の家に行ったのは分かっていたよ。
だから、夜叉の動きに目をつけたんだ。
そして、伽藍湖で止まったところを捕捉しに行った」
簡単に言うけど、そんなことできるんだ……
「まさか沙羅が夜叉と一緒だったとは思わなかったよ。
そして、君が湖に投げ捨てられたところを見て、怒りでどうにかなりそうだった。
助けられなくて、ごめんね。
とても寒かったよね」
こうなった原因は牛頭なんだけど、牛頭が私のことをとても気遣ってくれている気持ちはすごく伝わっている。
今だって、牛頭に放り出されたら、私はバケモノに食い殺されるわけだし。
保護しようとしてくれていると、分かっている。
大怪我を負わせたのに咎めないし、逆に大切にしようとしてくれている。
でも…………私は帰る。
すると、牛頭は私を見て、くすくすと笑っていた。
「今日の沙羅は面白いね。
お昼はあんなに威勢が良かったのに、今は借りてきた猫みたいにしおらしい」
「……少しは反省しているの」
帰るためには、蝶の標本を壊さなくてはいけない。
だから、従順な振りをして、牛頭を油断させるべきだ。
「ふふ、いいよ。
そのまま夜も大人しくお利口にしていてくれると、助かるよ」
「ぶっ!」
唐突すぎる夜の話題に、お味噌汁を吹いた。
この人、襲う気満々だ………………
「ダメ!襲わないで!」
「大丈夫だよ、今日は二回目だから痛くないよ?」
「そういうことじゃなくて!」
「恥ずかしいの?
力を抜いて、僕に委ねていればいいよ?」
「だからそうじゃなくて……!
私は、合意してないし!許してないから!」
「その気になるように誘惑するから……ね?」
その美貌でにっこりと微笑む牛頭に、タジタジになる。
本当に強引な人だ。
どうにかして、逃げないと…………!




