馬頭(メズ)5
牛頭の正体って……
人間じゃない何か。
そして、馬頭や夜叉も同じなんだってこと。
私に聞かれたくない正体って、何なんだろう。
「いいわ、別に大したことじゃないから。
牛頭がしたことのほとんどは話せたから、良いとしましょう。
そんなことより、沙羅ちゃんを帰してあげることのほうが大事だわ」
「ありがとうございます」
かなり真剣に考えてくれているみたいで、心強い。
優雅な馬頭の動作につられて、テーブルに置かれた華奢な造りのティーカップを手に取って傾けた。
「わ、美味しい」
香りのいい紅茶で、鼻に抜ける香りがとても素敵。
「うふふ、こうしてお客さんを呼んでティータイムにするのも悪くないわね」
深紅の瞳を細めてにこりと笑う馬頭は、西洋絵画のようだった。
夜叉は相変わらず、不機嫌なままだけど。
「……それでね、ここからが本題。
沙羅ちゃんは牛頭から記憶を奪い返さないと、元の世界に帰れないわ。
今は怪我を負っている状態だから、上手く行けば取り返せるかもしれない。
記憶を取り戻す方法はね、牛頭が持っている蝶の標本を壊せばいいのよ」
「蝶の標本……」
それを、牛頭の家で見た覚えはない。
「家の中のどこかに隠してあるはずよ。
恐らく鍵が掛けられるような場所に入っているんじゃないかしら」
確かに、壊されたくないのなら、鍵のかかる場所に保管しておくだろう。
「それじゃあ、その鍵も探さないといけないってことですね。
でも、金庫とかだったら、ちょっと開けるのは難しそう……」
「うふふ、鍵なら作れるわ」
すると、馬頭はその美しい白髪をさらりとかき上げて、髪を1本引き抜いた。
すると、その髪の毛が馬頭の手のひらの上で形を変える。
ころんと、小さな白い鍵が出来上がった。
「え!?
すごい!魔法みたい!」
そして馬頭は私の手のひらに、白い鍵を置いた。
「これはなんでも開く鍵なのよ。
結界があるから、私は牛頭の家に入れない。
これくらいしか出来ないけど、頑張ってみてね」
ニコッと笑う馬頭を見て、気を引き締める。
「とっても助かります!
ありがとうございます」
「さあさ、牛頭の所に戻るといいわ。
あ、鍵は一度使うと消えちゃうから気をつけてね」
「色々と本当にありがとうございます」
「いいのよ。
夜叉、その瞬足でさっと送ってきてくれる?」
そう言われた夜叉は、嫌そうに顔を歪めた。
「いいわね?」
まるで幼子を躾ける母親のように、強く念押しをする馬頭の眼光が鋭く光る。
「……かしこまりました、馬頭様」
夜叉は眉根を寄せて、拗ねるように顔を背けた。




