馬頭(メズ)4
「うふふ、沙羅ちゃんが元の世界に帰りたい理由を思い出すためには、牛頭の協力がいるのよ。
牛頭はね、貴女の記憶を奪った張本人なのだから」
「……え!?
牛頭が?」
「そうよ、あの蝶は牛頭の持ち物なのよ。
あの蝶を何色みたかしら?」
「えっと……赤、オレンジ、青、紫、ピンクの5色です」
すると、夜叉は僅かに目を開いた。
「あらあら、この短時間で良くもまぁ…………」
「えっと、どういうことですか?」
「1日1色の蝶を使うだけでもヘトヘトになるでしょうに、この短時間で5色は異常だわ。
きっと、何かしてるわね、牛頭は」
「あれ、でもちょっとおかしいです。
私、牛頭に出会う前に、既に3色見ているんですけど……」
牛頭と知り合ったのは、あの駅のホームだ。
それなのに、牛頭の使役する蝶に、電車内で遭遇するのは、時系列がおかしい。
「うふふ、沙羅ちゃん。
どうしてだと思う?」
そういえば、牛頭と最初に会った時、何故か見覚えがあった気がする。
「…………私と牛頭は昨夜が初対面じゃない?」
「そうでしょうね。
どこかで会って、目を付けられてしまったのね。
そして、この世界に連れてこられた」
「な…………」
「全部、牛頭の仕業だわ。
だから、貴女は牛頭を恨んでもバチは当たらないでしょう?」
「そうですね……」
牛頭は、何者なんだろう。
記憶を奪う蝶だったり、御神酒を掛けて身体が溶けたり、人間業ではない。
「あの、牛頭は何者なんですか?
人間じゃないですよね?」
すると、馬頭はきょとんとした顔になった。
「あら、知らなかったの?
牛頭も私も、夜叉も、みんな■■よ」
「え?
ごめんなさい、よく聞き取れなくて。
もう一度言ってくれませんか?」
「だから、私達は■よ。
■■っていうのは、それぞれの■■■で■■を■■しているの」
「え……?
大事な部分が全然聞こえないんです」
「あら、もしかして……」
馬頭は身を乗り出して私を観察し始めた。
そして、私の耳を触って何か調べている。
「うふふ……あいつに耳を触られたでしょう?
牛頭って、本当に用心深くて嫌いだわ。
まさか、正体を明かされない呪いを掛けてあるだなんてね」
「あ……」
あの時、確かに不自然に両耳を触られた。




