表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/68

馬頭(メズ)2



綺麗な赤の玄関マットに、私の足が乗った時に初めて気づいた。



「あ………………裸足でごめんなさい」



裸足だったことに気づいて、申し訳なくなった。



「いいのよ、必死で逃げて来たんだもの。

これを使って頂戴」



出てきたのは、オシャレな花柄のスリッパ。



「ありがとうございます」



スリッパを履いて、家に上がった。



部屋の中は、アロマのようないい香りがする。



玄関ホールでは二階へ上がる階段を横目に、左手の部屋に通された。



「こちらにどうぞ」



部屋に入ると、和洋風のオシャレな雰囲気のリビングダイニングだった。



所々に木の飾り格子が組んであり、和モダンな感じがとても落ち着く。



「ここに座って、紅茶でいいかしら?」



リビングにはL字のソファがあり、長辺の一番奥のところに座るよう促される。



隣の対面キッチンでは、夜叉(ヤシャ)がお茶の準備をしているようだ。



「あ、はい。

ありがとうございます」



柔らかい布地のソファに座ると、馬頭(メズ)は私のすぐ隣に座った。



「うふふ、大変だったわね。

沙羅ちゃんがどんな目に遭ったのかは知ってるわ。

可哀想に、あの牛頭(ゴズ)に目を付けられるなんて。

私は牛頭(ゴズ)の親族ではあるんだけど、あいつのことは本当に大嫌いなの。

だから、牛頭ゴズのお気に入りの沙羅ちゃんを、元の世界に帰してあげるわ」



やっぱり、牛頭ゴズの親族だったらしい。



それも、牛頭ゴズと因縁があって、私に協力してくれるというのは心強かった。



「ありがとうございます」



………………でも、どうしても、気になってしまうことがある。



「あの、御神酒おみきをかけた後の牛頭(ゴズ)は、どうなったんですか?」



「え?ああ……」



それを言った途端、馬頭メズの雰囲気が変わった。



その美しい目尻をつり上げて、黒く笑う。



「うふふ……あの姿は傑作だったわぁ。

牛頭(ゴズ)はね、御神酒を被ると皮膚が溶け落ちるのよ。

酷い火傷を負ったような感じかしらね。

苦痛にのたうち回ってあちこちに身体をぶつけて悶え苦しんでいたわねぇ」



「え…………」



皮膚が溶け落ちる?



思っていたより、かなり酷い。



それってもう、大怪我の部類だと思う。



……私のせいで……



さも愉快げに笑う馬頭メズを横目に、胸が痛くなった。



「……そんなに酷い怪我なんですか?

治るんですか?」



「うふふ。

まぁ、あと一年は腕が溶けたままなんじゃないかしらね、自業自得よ。

沙羅ちゃんは、もっと恨んでもいいくらいだわ。

普通ならすぐに元の世界に帰れたのに、あいつのせいで帰る方法がとても面倒なことになってるんだから」



「そんな……」



一年も掛かる怪我って…………



牛頭ゴズにとんでもない大怪我をさせてしまった。



その事実が胸に刺さって、何も言えなくなる。



そんな最中、トレーを持った夜叉ヤシャが、お茶を運んできた。



「うふふ、牛頭ゴズのことが気になるのかしら?」



馬頭(メズ)はずいっとこちらに近づいて、私の頬をさらりと撫でる。



頬を撫でる癖まで、牛頭ゴズと一緒だ。



――カチャン



夜叉ヤシャがティーカップを置いた音が、やけに大きく響いた。



え……?



夜叉ヤシャからの刺すような視線が、私のこめかみを射抜く。



絶対に、私に嫉妬しているんだと思う。



「えっと……」



「沙羅ちゃんは可愛いわねぇ。

夜叉ヤシャもそう思うでしょう?」



唐突に、馬頭メズ夜叉ヤシャに話を向けた。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ