馬頭(メズ)1
駅前は、かたす駅と比べるとだいぶ近代的で、ネオンのついたお店がいくつも並んでいた。
バー、クラブ、スナック、カジノ、どれも夜系のお店ばかりだ。
こういう街を歩いたことがないから、少し居心地の悪さを感じてしまう。
そんな私を一瞥すると、馬頭はにこりと笑った。
「やみ駅はこの天気もあって、ほとんどが歓楽街なのよ。
うふふ、あなたみたいな可愛らしいお嬢さんには、まだ早すぎるわねぇ。
早いとこ、うちに避難しましょ」
「は、はい」
落ち着く艶やかな声で、なんだかとても雰囲気のある話し方をする。
その美しい容姿と声に魅入られてしまいそうだった。
「こっちよ」と言って先導する馬頭の斜め後ろについて歩いていく。
駅前を左折して3区画目、花屋の隣で馬頭は足を止めた。
「さぁ着いたわ、ここが私の家よ」
指を差すのは、二階建てのモダンな家。
庭には美しい花が咲き、玄関にはアンティークランタンのようなものが掛かっている。
ランタンのオレンジ色の優しい光に照らされて、玄関のタイルには何かの模様が浮かび上がっていた。
独特な模様…………家紋かな。
牛頭の家の提灯に入っていた家紋と似ているけれど、少し違った形をしている。
「素敵なお家ですね……」
「うふふ、ありがとう。
玄関はこっちよ」
馬頭の後に続いて門をくぐり、左右の庭を楽しみながら玄関前に来た。
――ガチャ
鍵を掛けていなかったらしく、馬頭は玄関のドアを開けて家の中に入っていく。
「お邪魔します」
その後に続こうとすると、入ってすぐのところに誰かが立っているのが見えた。
「お帰りなさいませ、馬頭様」
そう言って、青髪の若い男性が頭を下げている。
え…………執事?
いや、執事というより、ちょっとチャラい大学生って感じだけど……
「お客様を連れて来たの、沙羅ちゃんよ」
顔を上げたのは、目付きが鋭い感じの青年。
ビジュアル系のような真っ青の髪と鎖骨に掛かる長めの襟足。
その固い言動とは裏腹に、パッと見の印象はチャラい感じのお兄さん。
「どうも」
その鋭い眼光に射抜かれる。
あれ、睨まれてる……?
その視線に含まれているのは、強い警戒心とどことなく漂う嫌悪感とだと直感した。
歓迎はされていないらしい。
話が終わったら、すぐに退出したほうが良さそうだ。
「この子は夜叉。
うちで住み込みのバイトをしてくれているの。
夜叉、お茶の準備をしてくれる?」
馬頭が微笑みかけると、夜叉はその頬を少し緩めた。
「はい、馬頭様」
………………わかりやすい。




