牛頭(ゴズ)11
降車すると、改札の前で誰かが手を振っているのがすぐ目に入る。
その存在は、この灰色の地下駅の中でとても目立っていた。
「沙羅ちゃん!
こっちよ~」
あ……………………
夢の中の女性だ。
ぎゅっと鞄を握りしめながら、緊張気味に近づいていく。
20代くらいだろうか、ストレートの長い白髪を靡かせて、紅色のコートに身を包んでいた。
瞳の色は血のような赤。
…………間違いない、洗面台の鏡に映った女性だ。
緊張しながら、一歩一歩近づく。
大きい胸が強調されたタイトな服装に身を包む、白髪赤目のアルビノ女性。
背はすらりと高く、胸は大きいけれど手足は華奢で、モデルみたいな体型だ。
あれ………………?
近づく程に分かる、その凛とした美貌。
美麗な目元、スっとした高い鼻梁、香り立つ色香。
それは、どことなく牛頭を想起させた。
見れば見るほどに、面差しや全体の雰囲気が似ている。
……ら、沙羅……
耳の奥に残っている、私を呼ぶ声。
…………罪悪感に飲み込まれそうになるのを、振り払って進む。
改札で駅員さんに切符を渡して通り抜け、その女性と対面した。
「沙羅ちゃん!
よく来てくれたわ~
私の名前は馬頭よ。
よろしくねぇ」
馬頭と名乗る女性は、深紅の瞳を細めながら微笑みかけてきた。
「どうして、私のことを……?」
「そうねぇ、ここだとあれだから、少し場所を移してゆっくりお話しましょうか。
出口はこっちよ、ついてきて」
馬頭はそう言うと、私の言葉を待たずに踵を返して先導した。
その艶やかな白髪がサラリと舞う。
その光景も、牛頭と同じだった。
…………ついていこう。
この人は多分、あんな醜悪なバケモノの仲間ではない。
牛頭に似た女性を前にして、何故かそう思えた。
馬頭の後ろに続いて、コンクリートの階段を上る。
やみ駅は地下のせいもあり、少しジメッとしていて暗く無機質な雰囲気だった。
「うふふ、緊張しないでねぇ。
酷い目にあったんでしょう?
もう大丈夫よ、安心してちょうだい」
コートと同じ紅色のハイヒールが、階段にカツンカツンと響く。
徐々に光が見えてきた。
「ようこそ、やみ駅へ」
こちらを振り返って、その美しい白髪を靡かせながら馬頭はにっこりと微笑んだ。
「わぁ……」
階段を登りきって外に出ると、そこに広がっている景色は見事な夕暮れ。
茜色と紫色の空に、少し星が輝いている。
「…………え、なんで、もう夕方?」
「ううん今はお昼過ぎよ。
やみ駅には完全には日が登らないのよ。
お昼は夕暮れで、夜は夜って感じかしら。
さぁ、こっちよ」
周囲はネオンが煌めく花街。
そして、夕暮れと夜しかない町、それがやみ駅だと知った。
次回、登場人物紹介と5000PVおまけと次話投稿します。




