表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/68

牛頭(ゴズ)10



真昼の電車内は案外人が乗っていて、賑やかだった。



電車内はおじさんがお弁当を食べていたり、親子連れや浴衣姿のカップルが楽しそうに話していたり、ちょっとした観光列車のようにも見える。



昨日、私しか乗っていなかったあのがらんどうの電車と、随分様子が違う。



「次はきさらぎ駅、きさらぎ駅でございます。

お出口は左側です」



きさらぎ駅……



あの有名なきさらぎ駅だ。



最初の投稿者はこの駅に迷い込んで失踪している。



車窓からの景色は、風光明媚な街に見えた。



豊かな自然の中に、住宅街と屋台や出店のような商店街が立ち並び、その奥に大きな鳥居が立っている。



神社の後ろには、建物の陰になっていてよく見えないが、きらりと光る何か大きなモニュメントのようなものが見えた。



寂れた田舎という雰囲気のかたす駅と違って、少し活気のある印象を受ける。



「ご乗車ありがとうございました、きさらぎ駅、きさらぎ駅です。

お忘れ物にご注意ください」



――プシュー



ドアが開くと、ゾロゾロと人が降りていった。



かたす駅と同様に駅舎自体は古く、柱や梁は所々腐食しているようだ。



あれ、何だろう?



……例大祭?



その古い駅舎の壁に「例大祭」と書かれた大きなポスターが貼ってあるのが見えた。



こんな都市伝説の世界に、お祭りでもあるのだろうか。



「ドアが閉まります、ご注意ください」



――バタン



楽しそうにはしゃぐ人達が降りて、電車内は私の他に数人しか乗っていない。



急に静かになったかと思うと、電車がトンネルに入った。



この電車、また緩やかに下っている気がする。



少しずつ不安が出てくる。



あの女性はかなり怪しい存在だ。



鏡の中や夢の中に現れて会話したり、夢の中から御神酒を渡したりと、どんな手品でもあり得ないことをしている。



その行動は科学で説明がつかない、完璧なオカルトだった。



バケモノの仲間かは分からないけど、少なくとも人間ではないことは確実だと思う。



でも、それにあまり驚かなくなってきている自分が怖い。



「次はやみ駅、やみ駅でございます」



電車は地下に下っていく。



赤橙色のライトが、おどろおどろしい色彩を放って、不安を煽った。



この世界では考えて行動しないと、多分死ぬ。



オカルトが存在している時点で、死ぬことや消えることがこんなにも身近な世界だ。



しっかりしないと。



確か、牛頭ゴズに聞いたときは……



『僕を不幸にすることが趣味みたいな奴でね。

きっと沙羅にちょっかいを掛けて、惑わせようとしているんだよ』



惑わせようとしてる?



目的は、牛頭ゴズへの嫌がらせ?



だったら……私は……



本当に帰してもらえる可能性もあるけれど、見せしめのように殺される可能性も十分にある。



上手く話をつけないと……死ぬ。



それを理解して、全身に恐怖が駆け巡った。



「やみ駅、やみ駅に止まります。

お忘れ物にご注意ください」



そのアナウンスに、心臓がきゅうっと縮こまる。



電車は少しずつ減速し、やみ駅のホームが見えてきた。



どうやら、やみ駅は地下の駅らしい。



震えそうになる手で鞄を握りしめて、ドアの前に立つ。



薄明かり照明がぼんやり灯る駅は、少し怖いけれどどこか幻想的でもあった。



電車が完全に停車し、ドアが開いた。



――プシュー



「やみ駅でございます。

お忘れ物にご注意ください」



夢のとおり、やみ駅は2駅目に存在していた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ