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牛頭(ゴズ)8



真っ黒なキャンバスに白いチョークで、何かが描かれていく。



白線で描かれたそれは、かたす駅の絵。



そこに下り電車が到着する絵に移り変わった。



電車のドアが開いて、電車に座ったような景色になる。



1駅通り過ぎて、その次の駅へ。



2駅目でドアが開き、下車したような絵になった。



看板に「やみ駅」と書いてある。



そのホームに、長い髪の美しい女性が立っている。



『沙羅ちゃん……』



『沙羅ちゃん……』



名前を呼ばれた。



『私なら、元の世界に帰してあげられる』



『やみ駅に来て、沙羅ちゃん……』



でも、牛頭ゴズに見張られているから、簡単には行けない。



牛頭ゴズの弱点を教えてあげる。

御神酒おみきを掛けると、暫くは動けないわ。

これ、使って』



真っ黒なキャンバスに御神酒が描かれた。



……これを取れってこと?



キャンバスの中に手を伸ばし、その御神酒の絵を取った瞬間、光に包まれた。



光で、何も見えな……!



ぱちっと目が覚めた。



……明るい。



優しい光が漏れこんでいる、ここは和室の寝室。



私は寝ていたらしい。



ひとまず着衣の乱れはないことに、ほっとする。



……夢、見てたのかな。



そう思って起き上がろうとすると、手に小さな瓶を持っていることに気づいた。



これは……



さっき夢の中の女性がくれた、御神酒だ。



夢じゃない?



でも、これが牛頭ゴズの弱点なら……使える。



声が同じだった…………



あの女性は、多分鏡の中から話しかけてきた人と同じ人だと思う。



女性は、私を元の世界に帰してくれると言っていた。



もし、それが嘘だったとしても、ここで一生過ごすよりマシだ。



チャンスがあるなら、やるしかない。



私は布団からすぐに出て、学生鞄を持った。



早く、御神酒を準備しておかないと。



文机の上で瓶をしっかり支え持ち、蓋に指を掛けて引っこ抜いた。



――ポンっ



いつでも牛頭ゴズに掛けられるように、鞄の中に手を入れた状態で隠し持っておく。



すると、すぐに足音が近づいてきた。



――ドクン!



恐怖と緊張で、心臓が竦み上がる。



しっかりしなきゃ!



襖がすーっと開くのを見て、胸が痛いほど脈拍が早くなる。



「沙羅、起きたみたいだね。

気分はどう?」



優しい雰囲気で、にこやかな牛頭ゴズが入ってきた。



動揺してはいけないのに、表情は強張るばかりで、何も答えられない。



緊張に手に汗握り、口から心臓が飛び出しそうだった。



「……ん?」



私を見て、一瞬で牛頭ゴズの表情が変わった。



「……沙羅、どうしたの?

鞄なんて持って、まるでどこかに行くみたいだね」



怪しんでいる様子の牛頭ゴズが近づいてくる。



「沙羅、なにか隠してる?」



その手が近づいてきた瞬間、私は隠していた御神酒を牛頭ゴズ目掛けて振り掛けた。



――ジャバッ!



「うああああ!!!!」



張り裂けるような悲鳴が上がる。



すぐに白煙が上がり、何かが焼け焦げるような臭いが鼻をついた。



結構な効き目らしい。



い、行かなきゃ!!



私は全速力でその場を飛び出し、玄関に向かった。



――バン!



荒々しく扉を開き、ひた走る。



玄関にちょこんと置いてある私の靴をひったくると、震える手で靴を履いて、玄関の引き戸を開けた。



早く、早く!!



転げ出るように、脱兎のごとく道に躍り出る。



道順はしっかり覚えていた。



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