牛頭(ゴズ)7
寝室に飛び込み、震える手で自分の鞄を開ける。
昨日のノートを探し当て、祈るようにページをめくった。
あった、昨日のメモだ。
【自分の名前を忘れてはいけない】
その隣に書かれていたのは
■■沙羅
文字が潰れて、読めない。
昨日はしっかり書いていたはずなのに!
生徒手帳を出してみても結果は同じだった。
■■■■高校
■■沙羅
その部分が、読めなくなっている。
「まさか…………!」
携帯を取り出し、電話帳を開く。
「■■■■ 080-****-****」
「■■■■ 080-****-****」
「■■■■ 080-****-****」
名前の所が全て読めなくなっている。
昨日送ったメール
To ■■■■
名前が……ない。
どうして………………名前が分からないの?
なんで………………なんで………………!?
そして、携帯は電池残量を失い、ブラックアウトした。
「いや!!そんなの!!
有り得ないよ!!
こんなの嘘!!」
私の後を追いかけて来た牛頭は呟く。
「……自分の名前を忘れてはいけない、なんて、よく知ってたね。
この世界に迷い込んだ先人達の知恵かな。
どちらにせよ、沙羅は元の世界で関わった人達のことを綺麗に忘れてしまうよ。
だから、未練なんてないよね?」
私の後ろに立つ牛頭を憎々しく見上げ、我を忘れて掴みかかり半狂乱になる。
「なんでこんな目に!!
貴方のせいでしょ!!
変なものを無理やり食べさせられた!!
酷い!酷すぎる!!
こんな怖いところから帰れないなんて!!
絶対にやだ!!!」
すると、牛頭は手を伸ばして、しっかり私を抱き締めた。
「ごめんね、沙羅。
もう帰してあげられないよ。
僕が大切にしてあげるから……」
「やめて!離して!!」
その腕の中でめちゃくちゃに暴れた。
こんな人に抱き締められたくない。
「全て忘れて……
ゆっくりおやすみ、沙羅」
右手で無理矢理上を向かされて、その透き通った目と目が合った。
その、なんとも言えない切なげな色に縫い止められれて、身動きが取れない。
そして、その美麗な顔が近づいてくる。
「い……や……!」
薄く柔らかな感触が唇を覆った。
その左手が腰に回って、身動きが取れない。
また…………キス……
二度目のキスも、荒々しくて苦しい。
……ぷは!
空気を求めて口を開くと、ぬるっと冷たい舌が口内に入り込む。
「んんっ!!」
じゅる、と嫌な水音を聞きながら、牛頭の胸を弱々しく押した。
でも……こんなの、抗えない。
強引な仕草に、強烈な色香に、為す術もなく飲み込まれる。
そうしているうちに、意識が遠くなっていった。




