牛頭(ゴズ)5
「美味しかった!」
空腹だった私は、あっという間に完食していた。
「料理上手なんだね」
食べて分かったけれど、牛頭の料理はどれを食べても美味しい。
「ふふ、ありがとう」
牛頭はキッチンに立ってお皿洗いをしている。
一瞬手伝おうかとも思ったけど、そんな義理はないことに気付いてやめた。
「料理は化学だからね。
趣味と言えるほど好きだよ。
和洋中なんでも作れるから言ってね」
そう言って笑う牛頭の言葉に引っかかりを感じる。
その妙な違和感が何なのか、今までの会話で確信めいてきたから、思い切って聞くことにした。
「ねぇ、牛頭は…………私が元いた世界のことを、知ってるんでしょ?
ヨモツへグイのこともそうだけど、二つの世界があることを理解しているよね」
牛頭はお皿を洗いながら、背中を向けたままで答える。
「ああ…………知ってるよ」
「昨日、駅で会った人達に『元の世界』って言うと変な顔をされたの。
それなのに、なぜあなたは知っているの?」
それを聞いた途端、牛頭の食器洗いの手が止まった。
悠然としていた牛頭が見せた、明らかな動揺。
核心を突きすぎてしまったかもしれないと、急に不安になる。
「ふふ…………」
いつもよりも低い笑い声に、不気味さを感じた。
「沙羅は……聡いね、その通りだよ。
僕は、この町の人とは少し違う。
沙羅の言う通り、『元の世界』と言われて理解することが出来る」
「…………どうして、知っていたの?」
牛頭は食器を洗い流して、手拭いで手を拭き、その黒髪を翻して私の方を振り返る。
「……さて、どうしてだろうね……」
さらりと舞う黒髪の紗から覗かせる不敵な笑みを見て、頭の奥が冷えた。
一体、何者なの?
話しかけても消えないし、ここが異世界であることも知ってる。
かと言って私みたいに他の世界から来た訳でもない、ここの生まれだと言っていた。
そして、私が知りたいことを誤魔化して答えないし、帰さないなんて言う。
この人は…………限りなく敵に近いのかもしれない。
「ねぇ、沙羅……」
そのままこちらに近づいてきた牛頭を見て、緊張が走る。
私が今、相対しているのは、結構な危険人物かも知れない。
「ねぇ!あなたの目的は何なの?
私を騙して殺すつもり?」
「殺す?まさか…………」
目の前に立って、座っている私を見下ろす表情は、どこか妖しく恍惚としていた。
そのまますっと屈むと、私の頬を撫でる。
「殺すわけないだろう?
こんなに可愛いんだから…………」
「いや……!」
その手を払い除けようとすると、今度は両耳を触られた。
なんで耳を?
訳が分からない行動を取られて、動けない。
触り方もやけに小さな動きで、何か妙な感じだ。
ただ、ヤバい人だとは理解し始めた。
その淡い色の瞳と視線がぶつかると、ふっと微笑まれる。
「いい子だね。
怖がらないで、危害を与えるつもりはないから。
沙羅はここで僕と一緒に幸せに暮らして欲しいな」
私の両耳を指先で細かく触りながら言うとか…………意味不明すぎる。
「嫌です、こんな変態と暮らしたくない。
ていうか、耳触るの止めてよ」
勇気を持って睨みつけると、大きな手が両耳から離れた。
牛頭は、こほんと一つ咳払いをする。
「ふふ、参ったなぁ。
随分嫌われちゃったみたいだ」
「当たり前でしょ!
昨日あんなことしておいて、嫌わない方が無理でしょ」
「僕は好きだよ」
その透き通る瞳は、静かに私だけを映していた。
「は?
嫌です、今日は絶対に帰る方法を見つけて帰ります」
昨日会ったばかりなのに、好きとかずっと一緒に住もうとか言えるんだろう。
その神経が全く理解できない。
「ふふ、沙羅は男という生き物をもう少し知るべきだね。
そんなに逃げたがると、余計に追い掛けたくなるよ」
「無理、帰りたい……」




