牛頭(ゴズ)3
お風呂を出ると、脱衣場にはバスタオルと新しい下着、そして服が用意されていた。
バスタオルで体を拭きつつ、その下着をまじまじ眺める。
それは、上下白のサテンの下着だった。
サイズを見ると、私のサイズとぴったり一致している。
……なんか、怖いんだけど。
そして、その横に置いてある服は、可愛らしい感じのピンクのワンピースだった。
牛頭の趣味なのだろうか…………だとしたら、結構少女趣味なんじゃないかと思う。
何歳なのかは分からないけど、なかなかの大人に見えるから、私とはそれなりに歳が離れているだろう。
私は女子高生だから、ロリコンとまでは言わないけれど…………近いような雰囲気を感じる。
生地の感じから見て新品っぽく見えるその服は、サイズもちゃんと合っていた。
「・・・」
どうしてこんなものを用意できたのだろう。
私が寝ている間に調達した?
私はそんなに長い時間寝ていたのだろうか。
それにしても、用意が早すぎる気がする。
いやそもそも、この世界にアパレル業は存在するのだろうか。
昨日の夜に見た、この町の荒涼たるゴーストタウンのような雰囲気から、正直アパレルショップが全く想像できない。
そういえば、日本家屋の街並みは昭和風だったけれど、牛頭の服装やこの下着、ワンピースも含めて、別に昭和風ではない。
寝巻きは昭和風かもしれないけど。
それに、よく考えると、この世界で元の世界の携帯の電波が入るのもかなり不思議ではある。
なんだろう、この妙な違和感は。
かけ離れているようで、近いところもある。
そんなことを考えながら、ワンピースを着て髪を乾かした。
いつもの通りに鏡を見ながら髪を三つ編みにするけれど、どこかいつもと違う気がする。
どうしてだろう。
ふと、三つ編みを編む手が止まった。
…………私…………大人になっちゃった…………のかな。
もちろん、記憶が無いからどんな感じだったのかは分からない。
でも、身体は大人にされてしまった。
鏡に映る自分は変わらないはずなのに、昨日塞がれた唇がやけに目に付く。
強引に塞がれた、あれがファーストキスだった。
それを思い出して、なんとも言えない喪失感に駆られる。
昨日だけで、色々ありすぎた。
知らない男性と手を繋いで家に行き、強引にキスや口移しをされて、身体の関係にまでなってしまった、なんて…………
ああーーもう、なんでこんなことに!!
三つ編みを編み終えて、溜息をつく。
その時、鏡の中が揺れた気がした。
ん?
目を擦ってみると、両肩に三つ編みを下げたピンクのワンピースの自分の姿が映っているだけだ。
……疲れてるのかな。
そう思っていると、また自分の姿がぐにゃりと歪んで見えた。
んん!?
鏡の中に、いくつもの漣が走る。
それは、私の姿を歪めて広がり、絵の具が滲んでいくように色が混じり合って取り変わる。
鏡を見れば見る程、自分の姿からかけ離れていった。
三つ編みがストレートの白髪に
黒い眼は赤い眼に
胸はパンパンに膨らんだ
………………臈長けたる艶やかな大人の女性。
え、誰……………………?
「…………沙羅ちゃん、私の声が聞こえますか?」
鏡の中の艶やかな美女は、私に話しかけてきた。
「誰……なんですか?」
その時、脱衣場のドアが勢いよく開いた。
「沙羅、こっちにおいで!」
余裕のない表情の牛頭に手を引かれて、半ば強引に脱衣場を後にした。




