牛頭(ゴズ)2
「そうだ、お風呂を準備しておいたから、入っておいで。
ほら、こっちに…………」
私の頭を撫でていた大きな手が、頬から鎖骨、肩をなぞり、腕を伝ってようやく手のひらを取った。
「…………………っ!」
そのしつこくも絡め取られるような動きに、息を飲む。
昨夜、縄で手首を縛られてしまった時のことを、なぜか想起した。
……嫌なのに、脳裏を掠める背徳感のせいかドキドキしてしまう。
そのままエスコートされるように手を引かれて、寝室からダイニングを通り過ぎ、脱衣所に連れてこられた。
「気分が悪くなったら、呼んでね」
そう言うと、牛頭と名乗った男は扉を閉める。
体液で汚された体を洗っておきたい気持ちはあったから、素直に入ることにした。
――チャポン
一通り体を洗い、湯船に浸かって考える。
一緒に暮らそうって……どういうつもりなんだろう。
昨日出会ったばかりの人に、普通そんなこと言わないと思うけど…………
やっぱりここは都市伝説の中の世界だから、そこに暮らす人も普通ではないのかもしれない。
――さて、これからどうやってこの世界から脱出しようか…………
夜になると霊鬼や鵺といったバケモノが現れる。
その姿を見たり鳴き声を聴いたりするだけで、自分の死を確信してしまうほど、あれらは危険な存在だ。
もし、あの牛頭という男が泊めてくれなかったなら、私は昨夜死んでいたと思う。
だから、命を救ってくれた牛頭に対して、その対価を身体で支払ったと思えば、妥当なのかもしれない。
――だからこそ、長く滞在する訳にはいかない。
牛頭に、宿泊の対価を身体で支払い続けてしまったら、元の世界に戻れなくなるような事態にさせられる気がする。
――絶対に、元の世界に帰る。
そのためには、バケモノが出ない日中に帰れる方法を調べて、試していくしかない。
でも今の私には、圧倒的に情報が不足している。
不本意だけど、この町のことを牛頭に聞いて、情報を整理する必要がありそうだ。
今日だって早いこと調査しないと、夜が来たらまた………………
『帰さない』と言った牛頭の絡みつくような視線を思い出して、鳥肌が立つ。
なんで、一晩泊めただけの私にそんな執着を見せるのか…………
なんだか、目眩がしてきた。
そろそろ、お風呂から上がろう。
――ぎゅるるる
空腹と喉の乾きも限界だった。




