異世界の住人13
たぶんR13くらいかと思います。
不思議な出来事ですっかり目が冴えてしまい、なかなか眠れない。
寝具はふかふかでいい匂いがするし、枕も丁度いい硬さと高さだ。
大きいパジャマも綿素材で気持ちがいいし、室温も丁度いい。
たったひとつだけ。
この後、一人暮らしの男性と同室で寝るということだけが、どうしても気になって眠れない。
すると、足音が近づいてきた。
――ガラガラ
部屋の引き戸が開いた音がして、身を固くする。
衣擦れの音と、男性の足音。
そして、それは真っ直ぐ…………こちらに向かって来た。
なぜ…………?
不意にお腹の上にズシッと重みが掛かった時には、遅かった。
「っ!!……え!?」
長髪の男性は布団の上から跨って、私のお腹の上らへんに座っている。
「ごめんね、ちょっとだけ我慢してね」
オレンジ色の常夜灯に照らされて、男性の顔に影が落ちており、その表情はよくわからない。
でも……これが緊急事態なのはよく分かる!
「やっ!!」
そして、その大きな手が私の両手首を掴むと、頭の上で一纏めにされた。
逃げないと、襲われる!!
しかし、体重をかけて押さえられた手首はビクともせず、お腹の上に乗られているため、自由なのは足のみだった。
だからといって、両足を思い切りバタつかせても、体格差がありすぎて、どうにもならない。
そうしている間にも男性は持っていた縄のようなもので、私の両手首を固く縛り上げていく。
「やだ!やめて!!」
身を捩って我武者羅に暴れても、胴が固定されている以上、抜け出ることは難しかった。
どうしよう!何とかしないと!
こういう時は、大声を出すんだ!
「だ、誰か!!助けてー!!!
誰かーーー!!!」
思いっきり叫んで、助けを求める。
その間にも縄は固く結ばれて、両手首はがっちりと頭上に固定されてしまった。
「……ごめんね」
男性は私に一瞥をくれると、私の鼻を摘む。
「っ!」
突然遮られた空気に驚き、反射的に口を開けると、男の顔がすっと近づいてきた。
え…………………………まさか………………
だめ、まだ私は…………………
私の口を、その薄い唇で覆われた。
「んんっー!!」
それはキスと呼べるほど、綺麗なものじゃなかった。
迂闊にも開けてしまった唇の隙間から、強引に舌が捩じ込まれる。
歯列を割られ、ぬるっと生温かい舌が入ってきたかと思うと、大量の唾液と共に小さな固形物を押しつけられる。
うっ、甘っ。
それでも何が起きているか分からず、必死に身を捩って抵抗した。
じゅく、じゅく、と耳を塞ぎたくなるような水音が部屋に響き渡っている。
そして、摘まれていた鼻が解放された。
固形物はやけに甘い。
これは………………飴?
「ふぐっ」
ようやく唇が離されたと思ったと同時に、今度は手で口を塞がれた。
「飲み込んで」
ぴったりと両手で、隙間なく口を塞がれている。
「お願い、飲み込んで」
それを言われて、ハッとした。
食べ物や飲み物を口にしてはいけない。
この男はタブーを踏ませる気だ。
しかし、このままではどうすることも出来ない。
小さな飴が口に入っているが、それより厄介なのは唾液だ。
さっきので、男の唾液を大量に流し込まれた。
苦しい。
このままでは、唾液で喉が詰まる。
嚥下してしまいたい反射を堪えているのは辛かった。
でも、飲み込んだら、もう帰れない。
目から涙が溢れてきた。
それは苦しくて流す生理的な涙なのか、絶望的な涙なのか分からない。
「……ごめんね、でも、苦しませたくないから、早く諦めてよ」
オレンジの小さな光に照らされた男の顔は、綺麗に歪んでいた。
嬉しそうにしているし、辛そうにもしている。
その長髪の一房が、肩からするりと流れ落ち、私の首にさらりと落ちた。
その瞬間
――ゴクリ
飲み込んでしまった。
私の喉が鳴るのを見届けて、満足そうに微笑む。
「ほら、まだだよ。
全部飲みきって」
狂気に充ちた笑顔見ながら、涙が零れ落ちる。
私はもう、帰れないのかな。
――ゴクリ
それを全て飲み込んだ。
口から男の手が外れて、新鮮な空気が流れ込む。
その瞬間、クラリと空間が溶けるように歪んだ。
「……ゆっくりおやすみ、沙羅」
そして、私は意識を失った。




