異世界の住人12
引き戸が閉まると、すぐに制服をポールハンガーに掛けた。
私の鞄は布団の横に置いてくれている。
あとは寝るだけだけど、携帯を見てみようかな。
21:45
電池残量は40パーセント。
特に何の着信もメッセージも来ていない。
元の世界では、私は学校に行っている時間軸なのだろうか。
せっかく家に来ているのに、携帯の充電器が無いので、充電することはできない。
困ったな。
携帯のおかげで生還した人がいるから、必要最低限しか携帯を使いたくない。
でも、この感じだと持って明日の昼までかな。
とりあえず兄に「かたす駅にいる、助けて欲しい」とだけ、メールしておいた。
きっと賢い兄なら、何とかしてくれるだろう。
それから、素直に布団に入り目を閉じる。
電気はつけたままにしているし、時間も早いからまだ全然眠くない。
…………この部屋、何か調べるべきかな。
まだ完全にあの男性を信用した訳では無い。
でも、さっきみたいに後ろに立たれていたらと思うと、本当に怖い。
ダメだ、やめておこう。
怖すぎるから。
そして目を閉じた。
次に目を開けたら、元の世界に戻っていることを願って。
…………喉、乾いたな。
食べないのは我慢できるけど、喉の乾きには限界がある。
それが、こんなに辛いとは思わなかった。
なかなか寝付けないでいると、男性が寝室に入ってきた。
とりあえずここは寝たフリをしよう。
布団で仰向けになって寝ているので、目をつぶった顔が見られて恥ずかしいけれど、仕方がない。
男性は私の方を見て、寝ていると思ったのだろうか、部屋の電気を落とし、オレンジ色の常夜灯だけにして、寝室を出た。
わざわざ部屋の電気を小さくしに来てくれたのか。
すると、部屋が暗くなったおかげで眠れるような気がしてきた。
ふっと瞼を閉じようとした瞬間。
あれ………………?
何かの光が横切った気がして、再び目を開ける。
………部屋の中に紫色が…………飛んでいる?
それは紫色の虹彩を放つ蝶だった。
また………………?
どうして、窓も扉も閉まっているのに?
今日1日だけで、赤とオレンジと青と紫色の蝶を見た。
場所も時間もバラバラ。
これって、何なんだろう。
光がすごく綺麗だから、嫌な気はしないけど。
紫色に輝く蝶達は、私の周りを飛び回る。
プラネタリウムみたいで綺麗だな………………なんて、ぼーっと眺めていると、それらはどこかに消え去って行った。




