異世界の住人11
お風呂から上がってダイニングに戻ると、あの男性がちょうど食事をし終えた所のようだった。
焼き魚を食べたのだろうか、香ばしい残り香にお腹が鳴りそうになる。
「いいお風呂でした、ありがとうございます」
そう声を掛けると、男性はにっこりと笑みを浮かべる。
「良かった、温まったみたいだね。
寝室はこっちだよ」
席を立ち、男性はダイニングキッチンの奥の引戸を開けると、そこは和室だった。
8畳くらいの畳の部屋で、何かお香でも焚いたのだろうか、とてもいい香りがする。
目に入るのは、和箪笥とポールハンガー、引き戸の押し入れ、文机がなどが置いてあり、庭に出れそうな障子窓があった。
そして、布団が2組敷いてある。
2組……
布団と布団の距離は1mくらいだろうか。
部屋の面積か許す限り、なるべく離そうとした感じは伝わる。
「ごめんね、ひとり暮らし用の家だから、こうするしかなかったんだけど」
「い…………いえ、泊めていただけるだけありがたいです……」
語尾が小さくなってしまう。
男性と付き合ったこともなければ、男性の部屋に入ったことすらない。
それなのに、今夜知らない男の人と同じ部屋に寝るなんて。
内心はドキドキして落ち着かない。
しかし、今は都市伝説の中の世界でかつ非常事態。
それに、この人は私の命の恩人だ。
優しそうな人だし、きっと大丈夫…………
緊張で固まっている私の様子を察したのか、長髪の男性は笑いながら和やかな雰囲気で言う。
「ふふ、大丈夫、取って食べやしないよ。
制服はそのハンガーにかけておいて。
布団は入り口に近い側に敷いてある方が来客用だから。
疲れただろうから、ゆっくり休んでね。
じゃあ僕はお風呂に入ってるから、もし何かあったら大声で呼んでね」
「は、はい!すみません、ありがとうございます」
そんな男性の態度にほっとした。
失礼なことを思ってしまって、恥ずかしい。




