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異世界の住人9



「ご、ご、ごめんなさい、勝手に開けてしまって……」



振り返って見上げると、男性はかなり近くに立っていた。



「……いいよ、別に。

でも、何かお腹に入れておかないと、元気になれないんじゃないかなって思ってしまうよ」



息が掛かるほど近く立っているせいで、玲瓏とした美貌とオーラに圧倒され、身動みじろぎ一つ出来ない。



でも………………どうしてだろう。



こんなに近いのに、その長い睫毛に縁取られた淡い色の瞳の感情が、上手く読み取れない。



単なる心配なのか、私に対する猜疑心なのか、はたまた勝手に家探しをされた憤りなのか、その気持ちが靄に包まれているかのように分からない。



ただ不思議と静かなさざなみを感じる、透き通った瞳。



「ほ、本当に、大丈夫、ですから」



結局、冷凍庫は見れなかった。



「そう…………自由にしてもらって構わないけど。

まぁ、食べたくなったらいつでも言ってね」



さらりと黒髪を翻して男性はキッチンに立ち、食事の準備し始めた。



その後ろ姿に、言葉をかけたくなる。



「あの!

何か、お手伝いをさせてください」



お世話になる以上、せめて何か働きたい。



傍に寄って迫ると、男性は観念したように眉を下げて笑みを零した。



「うーん、そうだなぁ……

じゃあ、食器棚からお茶碗とお椀と、平皿を取ってくれる?」



キッチンから見て左手にある年季の入った小さな食器棚を指し示された。



「はい!」



言われた通り、硝子の嵌めてある観音開きの食器棚を開ける。



――キィ



中には、各食器が1つずつ綺麗に並べてあった。



そして、その奥に同じ数だけ同じ形の白い包みが見える。



恐らく、同じセットの予備のお皿だろう。



それらは、出された形跡はない。



…………?



なんだろう、この違和感。



几帳面な性格で、毎回同じお皿を洗って使っている。



そして、来客にご飯を振舞ったことは1度も無い。



でも、ひと揃えの来客用の食器の用意はある。



当たり前のようではあるけれど…………ほんの少しの違和感。



言われた物を取って、男性の立つ調理台に置いておいた。



「はい、他には何かお手伝いしましょうか?」



「うーん、そうだなぁ。

じゃあそのコートは玄関の横のハンガーに掛けておいてくれるかな?」



「はい」



ダイニングを後にして、廊下で私の足首まですっぽり覆っていたロングコートを脱ぐ。



そのまま玄関に向かうと、玄関横に木のポールハンガーがあった。



コートをハンガーに掛けようとした時、内側に刺繍が入っているのが目に止まる。



牛頭



本当に変わった苗字、なんて読むんだろ。



顔は見た事があったように思うけれど、その名前を見ても、全くピンと来ない。



珍しい苗字だから、見たら忘れなさそうに思うけれど。



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