異世界の住人6
その長身の背を追って、跨線橋をゆっくり渡っていく。
バッグを持ってもらっているにもかかわらず、自分の足取りはお世辞にもまともとは言えない。
さっき見てしまった霊鬼の残像が、網膜から消えてくれないのだ。
更に、鵺というバケモノの不気味な鳴き声が脳内でリフレインしている所為で、上手く足に力が入らない。
誰かに押されればいとも簡単に崩れてしまうほどに、体中が情けなく震えている。
背後から迫りくる死の恐怖に駆り立てられながら、歩くしかなかった。
まるで生きている心地なんてしない。
しっかりしないと…………
今は、この長髪の男性の後に続くことだけが唯一の助かる道だった。
覚束ない足取りで階段を下りきって、何とか改札まで行くと、窓口のところにはまだ私の60円が置いてあった。
そして、やはり窓口の中に人の姿はない。
「ここの駅員さんは怠け者でね、よく抜け出すみたいなんだよ。
多分、最終列車が着く頃には電気を消しに戻ってくると思うけど」
「そう……なんですか」
度々無人駅になってしまうのは、駅員さんの性格の問題だったらしい。
改札を通り抜けると、長髪の男性はストレートの髪をさらりと揺らして、私の方に振り返った。
「ここが、かたすという町だよ」
そこには、ゴーストタウンのような荒涼とした町並みが広がっていた。
あのおばあちゃんが居た駅前の商店は、既にシャッターが閉まっているし、窓に明かりがついている家は一つもない。
まるで人がいなくなってしまったかのような、捨て去られた古い住宅街のようにすら見える。
本当に、人が住んでいる場所なのだろうか…………
唯一の明かりは年季の入った黄色い街灯だった。
それは道の脇に点々と灯っているけれど、全体的には薄ぼんやりとして暗い。
「ここから先は、暗闇になっているところをじっと見てはいけないよ。
そこから霊鬼たちが出てきてしまうからね」
「え…………」
暗闇を見ると、霊鬼が出てくる…………
あの醜い異形の姿を鮮明に思い出し、背筋が凍った。
あれが突然出てきたら、恐らく発狂してしまうだろう。
「ああ、そんなに震えて……
ごめんね、怖がらせちゃったね。
そんなこと言われたら、余計に暗闇を見てしまうよね」
迫り来る不安感から、言葉が出ない。




