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異世界の住人4



「あ……」



切れ長の目と高い鼻梁に、整った綺麗な顔立ち。



一言でいうと、美形な男性だ。



でも、どこで会ったか、誰だったのか、全く思い出せない。



「あり……がとうございます」



「すごく怯えていたみたいだけど、大丈夫?

何があったの?」



するとすぐに思い出した。



「あの!バケモノが、こっちに!

雑木林にいます!にげ、ないと!」



舌を噛みそうになりながらも、私は雑木林を指差した。



「え…………?」



バケモノがいた雑木林の草むらには、何もいない。



「いや、さっきまであそこにいたんです!」



すると長髪の男性はふふっと笑った。



「ああ、あれね。

逃げて行ったよ」



「え?」



てっきり否定されるかと思っていたけど、この人にも見えていたらしい。



「あれは夜の暗闇から出てくるから、一人で暗いところに居ちゃ駄目だよ」



「え……あれ、何なんですか?」



この人は、あのバケモノを知っているようだ。



「君の言う『バケモノ』で認識は合ってると思うよ。

一応、『霊鬼(れいき)』っていう名前があるけどね。

あいつらはどこからともなく暗闇から湧き出てきて、一人でいる人間を襲う。

でも、朝になるといなくなるよ」



長髪の男性は爽やかな笑顔で、なんでもないことのようにけろっと話した。



まるで、夜になると不審者が出るから家にいなさい、みたいな感じで。



「じゃあ、二人以上なら大丈夫ってことですか?」



「そうだね、少なくとも僕と一緒なら大丈夫。

僕はここの生まれだから、あいつらには慣れているんだよ」



慣れる、ものなのだろうか。



「ここの住人の方なんですね、よかった。

私、うまく言えないですけど、この世界に迷い込んでしまったみたいで。

あ、それと身の上話はしないでくださいね。

特に家族の話とか」



私の命の恩人だし、絶対に消えてもらいたくはない。



それに、また一人にさせられたら、恐らく私は発狂してしまうだろう。



「え、身の上話……?

うん、しないよ大丈夫」



薄手のコートを羽織る男性は、白っぽいスーツを着ている。



派手な見た目からして、サラリーマンではなさそう。



「ああ、唇が青くなってる。

その恰好じゃ寒そうだね。

これ、使って」



高校の制服姿の私を見ると、男性はおもむろに自分のコートを脱ぎ、私に羽織らせてくれた。



「ありがとうございます」



暖かさにほっとして、ようやく体の震えが治まってくる。



すると、男性は目を細めた。



なんだか親切な人で助かった。



「さぁ、そろそろ立てる?」



すっと手を差し述べられて、自分の状況を思う。



学生鞄は横に転がっていて、靴は半分脱げ掛かっており、スカートはほとんどめくれ上がって、無残にも尻餅をつくだけの自分。



「わっ、あ、はい」



素早く身なりを整えて、その手を取った。



男性に背中を支えられながら、ようやく立ち上がる。



「すみません、助かりました」



起き上がってみると、男性を見上げてしまった。



細身だけどなかなか長身だったらしい。



その黒髪が風に煽られ、月夜の空にさらりと流れる。



月下美人の優雅な香りが広がって、自然と胸がときめきそうになった。



……綺麗な男の人。



月明かりに照らされる彫刻のような顔立ちは、ゾッとするほど美しかった。



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