異世界の住人2
その幻想的な風景に見惚れていると、草木を掻き分けるようなガサリという音が微かに鼓膜を揺らした。
なんだろう?
雑木林の奥の暗闇に、何かが動くのが見えた。
……動物?
いや、でも何か様子が変だ。
動き方は這いずるようで妙に緩慢だし、形がデコボコしていて歪だ。
あれ……上向きや下向きに生えているのは、耳と手足と尻尾なのだろうか?
それにしても位置がおかしいし、数が多い。
何だろう、アレ。
目を凝らして見ているうちに、それはウロウロしながらもどんどん近づき、ついに月明かりの当たる草むらまで這いずってきた。
え…………
その黒い塊を見て、絶句する。
あれは耳や尻尾じゃない、体の四方八方から飛び出しているのは全部手足だ。
それも人間の手足の形をしている。
赤く光るのは全身に無数に付いているぎょろりとした目。
そして鋭い歯が覗く大きな赤い口……!
「っっ!!!!」
その無形の何かを認識してしまった時、背筋がぞわりと撫でられたような気がした。
「ひ……………………っ」
叫び出しそうな口を、無理矢理両手で押え込む。
バケモノ……!!
たくさんの手足と赤く光る目を無数に持つ、黒く這いずるグチャグチャしてる何か。
アレに気付かれたら、殺される。
本能的に、そう分かってしまった
だめ………………………………
口から心臓が飛び出しそうなくらい煩く鳴り響く。
…………アレに、気づかれたら………………
目は見開いたまま、背筋が凍りつき、手足がガクガクと震え出す。
極度の緊張状態に陥り、目の前がチカチカし始めた。
汗が止まらない。
そして、震える手から……
黒い学生鞄が、滑り落ちた。
あ…………………………………………
それは、スローモーションのように見えた。
学生鞄がゆっくりとアスファルトの上に吸い込まれていく。
――ドサッ
その音は、やけに大きく響いた。
心臓がビクンと跳ね上がり、瞬間的に汗が噴き出す。
ガラスが割れたかのような感覚。
ああ……………………………………………………
自分の最期を予感し、絶望に震えた。




