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異世界の住人1



視界を黒く染め上げる空気を吸えば、甘い。



肺に溜まる甘さに、頭がぼんやりと蕩けていく。



どれくらい柵に手をついて項垂れていたのだろうか。



いつの間にか立ち込める甘い芳香に、不思議な気持ちが沸き上がる。



…………何の香りだろう?



視界にふわりと浮かぶ、青。



…………え?



辺りを見回すと、私の周りに青い光彩が幾つも煌めいていた。



嫋やかに羽ばたくのは…………青い、蝶。



月夜に美しく舞う青い蝶が、私を取り囲むように飛んでいた。



なんで、蝶が……



そういえば、電車の中にも蝶がいた。



あれは赤とオレンジだったと思うけど、今飛んでいるのは青い蝶。



月明かりに照らされて青く光り輝く蝶がとても綺麗で、しばしの間目を奪われる。



やがて蝶々は私の周りから離れて、上りホームのフェンスを越え、雑木林の方へ飛んでいった。



あ、待って……



何故かわからないけれど無性に蝶を追いかけたくなって、誘われるように歩き出していた。



フェンスに向かって歩みを進めると、目に飛び込んできた光景に息を飲む。



わぁ…………!



フェンスを越えたすぐ向こう側に、可憐な白い花が幾つも咲いているのが見えた。



綺麗……………………



月明かりに光り輝く青い蝶と放射状に咲く見事な白い花は、ぞっとするほど幻想的で美しい。



あの白い花は……月下美人だ。



前に図書館で、花の図鑑に載っていたのを見たことがある。



一年に一度、それも夜しか咲かない花。



珍しいその花が、雑木林に入る手前の草原に幾つも咲いていた。



恐らく、一年に一度の夜が偶然にも今夜で、それが一斉に開花したのだろう。



さっきから漂っていたこの甘い匂いは、月下美人のものだと知れた。



都市伝説の世界で、こんな絶景が見られるなんて…………



私は我慢しきれずに、携帯で写真を撮った。



明日には散ってしまう花。



今の私にとっては、電池残量よりもこの景色が大切だった。



私の短い人生の中で、これ以上に素敵な風景を見たことが無い。



もし私が失踪しても、この風景だけは残しておきたくて。





そろそろ出てきます。

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